過去の私へ

真夜依

過去の私へ

私は朝がニガテだ。

寝ることを趣味としているほど、私にとってベットは最高の空間。そこから抜け出すにはとてつもない労力がいる。10分程かけて私の1日が始まる。そして朝ごはんを食べて、準備をして出かける。

すると母からこう声をかけられる。

「ほら、忘れてるわよ」

受け取ったのはお弁当でも水筒でも、はたまた部活の道具でも無い。マスクだ。いつからか自分の顔の一部となってしまった。それでも私はマスクを付ける。付けなければならない世界だから。


日本どころか世界中の人がマスクを付けて過ごす日々。

この『日常』に違和感を感じていたのは、果たしていつまでだっただろう。同じ日々を過ごすうちに、いつからかこの『日常』は生活に溶け込んだ。


そして、『日常』は私の憧れをも壊した。

修学旅行で夜遅くまで起きて枕投げや恋バナをする。

卒業式で後輩たちに笑顔で見送られる。

友達同士で机をくっつけてお弁当を食べる。

文化祭でいろいろなクラスを回る。

小学生の頃ずっと夢見てていた、何気ない私の憧れ。


こんな誰でも叶えられるような憧れが壊されることなんてあるの?


中学2年の終わり。

学年末考査の勉強をしている時だった。

明日から学校が休校かもしれないと知った。 信じられなかった。

翌日、テスト最終日を終えると、先生から課題が配られた。たった数枚のプリント。急いで作ったのが私にも分かった。

やはり、学校には行けなくなった。

実行委員長を務めて、1ヶ月以上かけて準備した遠足が中止になった。

先生は言った。

「その代わり、修学旅行は全力で楽しもう」

やりきれない気持ちでいっぱいだった。

同時に大好きだった先輩の卒業式にも出席できないと知った。

学校で先輩と会うことも出来なくなった。

先輩たちに対して思った。

卒業前に大変だな。受験は終わってる方が大半で良かった。

今振り返れば、あの時はまさかこんな長期戦になるとは思ってもいなかった。


中学3年になった。

学校に通えるようになったのは6月。

夏の学校見学は全て予約制で、必死に情報を集めた。

体育祭は規模を大幅に縮小し、なんとか開催した。

しかし、修学旅行と文化祭は無くなった。

悔しい気持ちを全て勉強に注ぎ込んだ。

卒業アルバムの3年生での行事は体育祭しか無かった。普通は数枚のはずの日常の写真が多く載っていた。端の方に1枚、ひっそりと配置された消毒液の写真がこの時代を物語っていた。

後輩たちは式に出なかった。後輩たちで埋め尽くされるはずの花道は、家庭で1名ずつ許可された保護者たちの花道だった。


そして、高校生になった。

念願の第一志望に入れた。

勉強も行事も部活も全てに全力を注ぐ人が多く集まる、中1から目指してた学校に。

入学してすぐオンラインになった。

合唱コンも無くなった。

体育祭は出来た。学年別だった。県内トップクラスの盛り上がりを見せる私の高校の体育祭とは思えなかった。

1年間、何度もオンライン授業になった。

また学校に行けないんじゃないかと怖かった。


2年生。

体育祭を全学年でやれた。ようやくこの学校に入れた気がする。

今年は合唱コンも文化祭も既に動き始めた。

去年の、いや中学の頃からの悔しさをバネに全力で頑張りたい。

そして、念願の修学旅行……絶対に行きたい。


そう思っていた矢先のこと。

夏休みを前に感染が再拡大した。


また行事が制限されるの?

どれだけ我慢すれば良いの?

どうして普通の学校生活が送れないの?


ニュースで旅行をしている人たちを見て、ただの嫉妬だと理解してても思ってしまう。

それだけ多くの人が旅行してるなら、私たちの修学旅行を返して。

私たちの楽しみを返して……。

私たちの学校生活を返して……。






過去の私へ


ねぇ、私。

数年後の世界がこんなだって想像できた?

会いたい人と会えない。

やりたいことが制限される。

世界中の人たちがマスクをする。

そんな世の中になるなんて思ってた?

私は今、先の見えないトンネルにいます。

もし、あの頃に戻れるなら……

あの何の変化もない、毎日みんなで授業をして、給食をわいわい食べて、たまに旅行に行く、そのことをつまらないと思っていたあの頃の「日常」に戻れるのなら……

私はその「日常」を全力で楽しむ。


今の私はもう、「日常」=「当たり前の日々」ではないと知ってしまったから……。

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