第2話 姉妹の生活

 ブラッドスレイヤーベール基地はベールの街の中心地に存在していて40階建てのビルである。

 十字架を記したエンブレムが特徴的な街の中心的な建物だ。

 ブランたちはビルの屋上を走りながら基地に向かう。

 

 「しっかしヘンダーもなんで早く推薦状を書いてくれないんだろう? 私早く学校行きたいのに」

 「試しているのよ。私たちは吸血鬼。同族を殺せるかどうか」

 「同族? 冗談やめてよお姉ちゃん。あんなのただのゴミだよ。ゴミは処分するのが普通でしょ?」

 「そうね。ゴミを殺すのに慈悲は必要ないわ」


 ブランたちはヘンダー基地長に雇ってもらった。

 ヘンダー基地長はベール基地のトップであり性格は極めて横暴。

 ブランたちに国家処刑人育成学校への推薦状を書くことを約束に吸血鬼の処刑をやらせている。

 ブランたちの目的は吸血鬼の根源である3大侯爵家を殺すこと。

 3大侯爵家は吸血鬼始まりの一族であり吸血鬼を根絶させるためにはその血を絶たなければならない。

 しかし3大侯爵家は日本の外であるブラックゾーンに潜んでいてブラックゾーンに行くには学校を卒業して国家処刑人、つまりは正規のブラッドスレイヤーにならなければならない。

 それに加え遠征部隊のメンバーにも選ばれないといけないため姉妹にはかなり厳しいものとなっていた。

 ブランたちはビルを渡っていき基地に到着した。

 地面にものすごい速度で落下していくがきれいな着地を決める。

 基地の正面玄関にはブラッドスレイヤーが武器を持って警備をしていた。

 警備していた兵士は一瞬ブランたちに驚くが平静を装う。

 吸血鬼にとって基地を落とすことはその人族の支配地域を掌握すること。

 よって基地はかなり厳重な警備となっていた。

 ブランたちはいつも通り正面玄関から基地に入ろうとするが兵士がそれを止める。

 ブランはだるそうに武器を兵士に預ける。

 ブランたちは吸血鬼であり任務以外での武器の装備は認められていない。

 だがブランたちは武器を持たずとも人族をなぶりり殺せるほどには強い。

 よって基地内では監視と手錠がかけられる。

 

 「行け」

 「はいはい」


 兵士が数人ブランたちの両脇を固めて基地内へ誘導する。

 ブランたちはここではなんら他の吸血鬼たちと変わらない。

 1つ違うことは殺されないということぐらいだろう。

 基地の中はかなり豪奢に作られていた。

 中はヨーロッパの宮殿といった感じだ。

 赤い深紅のソファーがあったり絵画が飾られていた。

 兵士は赤を基調とした軍服で腰にはクロスソードを携えている。

 玄関フロアを進むとエレベーターに誘導される。

 ブランたちはそれに従い乗り込む。

 ヘンダ―は最上階の一番頑丈な部屋を仕事部屋として使っていた。

 そこまで行くには何回もエレベーターを乗り継いで行くしかない。

 1本ではいけないようになっているのは侵入者に時間をかけさせるためだ。

 そしてエレベーターからエレベーターまでは複雑な通路を行くことになる。

 そこはブランたち姉妹にとってはあまりいい場所ではなかった。

 通路で行きかう兵士たちはブランたちに心無い陰口をつぶやいてくる。


 「この穢れた血め」

 「ヘンダー基地長のお気に入りだからって生意気な」

 「淫魔め」

 

 兵士たちはヘンダー基地長を色仕掛けでうまく落としたのだと思っている。

 ブランはそんな兵士に向かってベロを出して挑発する。

 すると監視していた兵士が後ろからブランの足をクロスソードで切りつける。

 ブランは「それがどうしたの?」と言わんばかりに兵士を白い目で見る。

 傷口は即時再生する。

 高い能力を持った吸血鬼は軽い怪我なら一瞬で再生することができる。


 「化け物め」


 兵士は再度ブランを切りつけようとするがノワールが兵士をにらみつけたため攻撃を止めた。

 ノワールは兵士から恐れられていた。

 それは、まだブランたちが基地に来て間もないころにブランを切りつけた兵士の耳をノワールがもぎ取ったからだ。

 なのでノワールが威嚇すれば兵士は嫌な顔をして攻撃を止めるのだ。

 何本ものエレベーターを乗り継ぎ最上階の部屋にたどり着いたブランたちは赤い威厳のある扉の前に連れていかれる。

 兵士たちはそこで姿勢を正し部屋をノックする。


 「失礼します。姉妹を連れてきました」

 「入れ」


 その言葉と共に兵士はブランたちを部屋に誘導する。

 部屋の中には白髪をオールバックにした恐ろしい顔の男が椅子に座っていた。

 ふかふかの椅子の上で足を組みながら膝の上で寝転ぶネコをなでていた。

 彼はヘンダー。

 ベールの街で最強のブラッドスレイヤーだ。

 彼の深く鋭い眉間のしわは数々の修羅場をくぐってきた歴史を物語っている。

 ブランたちはヘンダーのもとに行き血結晶けつけっしょうを机の上に置く。


 「これ、約束のもの」


 ブランはヘンダーに血結晶を渡す。

 ヘンダーは血結晶をまじまじと観察する。


 「美しい。やはり吸血鬼の血結晶はどんな宝石よりも美しい」

 「ねぇ? 推薦状は?」


 ブランはヘンダーに推薦状を催促するがヘンダーは血結晶に見入っていた。

 そしてブランがもう一度ヘンダーに問いかけようとしたときヘンダーはブランの頭を鷲掴みにして床に叩き伏せた。

 ブランは腕を拘束されていて受け身を取ることができずに顔面を強く打ち付けた。


 「推薦状はまだ先だ。あと1匹狩ってもらう必要がある」

 

 ノワールはヘンダーには手出しができなかった。

 大好きな妹であったがヘンダーに逆らえば自分たちの目的が遂行できなくなることが分かっていたからだ。

 監視の兵士たちがブランの様子を見てクスクスと笑う。

 ブランは鼻血を出しながらヘンダーをにらみつける。


 「ふん! 生意気な小娘が。犬畜生をわからせるには少々強いしつけが必要だな」


 ヘンダーの拳がめらめらと燃える。

 ヘンダーは魔法が使える。

 魔法は3人の魔法使いが作り出したものですべての生物がそれを行使できる可能性を秘めている。

 行使するには戦技と同様にソウルエナジーを使用する。

 ソウルエナジーの保有量が多いほどその強さは増していく。

 ヘンダーはかなりのソウルエナジーを保有していた。

 いくらブランが強くても軽傷では済まないほどだ。

 ヘンダーはじりじりとブランの顔に拳を近づける。

 ブランは抵抗できない。

 あまりの力の強さに動くことができないのだ。

 

 「分かったわ!! だから妹を傷つけないで!!」


 ノワールは大声で叫ぶ。

 ヘンダーはゆっくりとノワールを見やる。

 矛先が完全にノワールのほうに向いた。


 「美しい姉妹愛だ。だが不愉快」

 「なら私を殴って。妹にはちゃんと言っておくから」

 「お姉ちゃん?!」

 

 ヘンダーは勢いよくノワールの頬を殴り飛ばした。

 ノワールは数メートル後ろに吹き飛ばされピクリとも動かなかった。

 

 「「ははははははは!!」」


 監視の兵士たちは大きな声で笑った。

 ブランはすぐにノワールのところに駆けていく。

 ブランはノワールの体を拘束された手で揺するがびくともしない。

 見ると首がありえない方向に折れ曲がっていた。

 ブランは怒りをあらわにした。

 牙を鋭くとがらせてヘンダーに襲い掛かろうとした。

 しかしそれはノワールによって止められる。

 ノワールはわずかな力を振り絞りブランの腕をつかんだ。

 ブランはそれにより正気を取り戻し怒りを抑える。


 「再生には時間がかかる。その生意気な小娘どもを部屋に連れていけ」

 

 兵士たちはブランたちをきつく取り押さえ部屋から追い出そうとする。


 「待って!! 推薦状は本当に書いてくれるの?」


 ブランは今にも泣きだしそうな涙を必死にこらえヘンダーに尋ねる。


 「それは心配ない。必ず書こう。お前たちが最後の一匹を殺せたらな」


 そう言い残しヘンダーは椅子に座り込みブランたちは部屋から追い出された。

 そしてブランたちは部屋という名の牢屋に入れられた。

 地下にあり薄暗く汚いトイレと虫の湧いているベッドだけがある牢屋だ。

 2人は同じ部屋に入れられる。

 キッとブランは兵士たちをにらみつけるがすぐにノワールの様子を見る。

 ノワールは少し回復してきているがまだ喋れる状態ではない。


 「あいつら、絶対に殺す」


 ノワールはブランの手を握る。

 それでブランは察する。


 「分かってるよ。吸血鬼を全滅させるまであいつらは殺さないから」

 

 ノワールの首が少し動く。

 どうやら頷いたのだとブランは感じる。

 

 「待ってて、すぐに回復させるから」


 ブランは自分の唇を深く嚙みちぎる。

 吸血鬼は同じ吸血鬼の血を取り込むと力が増したり回復速度が速くなったりする。

 ブランはノワールの痛々しい顔に手を添えて唇にキスをする。

 唇からあふれ出た血が唇を伝いノワールに流れ込む。

 するとノワールの体から青いオーラがあふれ出て折れ曲がった首が徐々に元に戻っていった。

 

 「お姉ちゃん!!」


 ブランは嬉しさのあまりノワールの体に覆いかぶさる。

 手が拘束されているため抱き着くことはできなかった。

 ノワールはブランの様子を見て微笑を浮かべる。


 「ブラン、目的のために今度からは絶対にヘンダーに悪い態度をとったらダメ」

 「分かったよお姉ちゃん。でも推薦状が欲しかったんだ。早くこんなところ抜け出したいから」

 「分かったわ。でももうやったらダメ」

 「分かったよごめんなさい」


 ノワールは床に座り愛しい妹の頭に頬を乗せた。

 

 「ねえ? 学校に行ったら何をしたい?」

 「お姉ちゃんと一緒なら何でもいい」

 「それはダメ。ちゃんとやりたいことを見つけて。魔法使い様も言っていたでしょ」


 ブランは考える。

 正直ノワールと一緒なら何でもよかった。


 「ならおいしものを食べて友達を作りたい」


 ノワールは微笑みを浮かべる。

 15歳の年相応の夢だと思ったのだろう。


 「ならお姉ちゃんはブランを守れる強く優しいお姉ちゃんになるわ」

 「もうお姉ちゃんは十分強くて優しいよ」


 ブランとノワールはお互いに笑いあった。

 2人は十分幸せだったがこうして幸せな話をしているともっと幸せになれた。

 

 「さて、そろそろ眠りましょう。明日は最後の任務になりそうだから」

 「うん」


 そしてブランたちは眠りについた。

 



 

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