逃げるゲーム HADES

鷹山トシキ

第1話 前編

 1月12日

 国内の新規COVID-19感染者数が1万1766人となり、前年9月9日以来4か月ぶりに1万人を上回った。

 

 俺は食品工場でいじめられていた。工場『アポロン』は夕凪町ゆうなぎまちってところにある。あがたって奴で、そいつは派遣企業『プルートー』に所属してる奴でゴリラみたいな顔をしている。

 プルートーは、ギリシア神話の海の女神、あるいはニュムペーである。「富める女」の意。長母音を省略してプルトとも表記される。冥府の神とは別モノだ。

 県は掃除の仕方が雑だと殴ったり蹴ったりしてくる。

 俺は精神的に追い詰められていた。作業場にはエアーシャワーを潜らないと入れない。30秒手を洗うと、エアーシャワーに通じるドアが開く。ビューッ!って音がして人工の風が吹く。汚れを落として入室する。運の悪いことに、県もシャワー室で一緒だった。

一色いっしき、今日はちゃんとやれよ?」と、朝から叱りつけてくる。

 卵を洗ったり、掃除をしたり、卵に付着したウンコをホースで洗い落としたり大変な仕事だ。🥚

 休憩時間は昼休みしかない。こんな仕事早くやめて~や。今日は何事もなく1日が過ぎた。

 明日はどうしようか?アパートに戻り、考えた。

 夢の中でスーパーカーで海岸通りを走っていた。🏎

『DREAM・CHASE』STAGE1  

 すると背後から突然ジープが現れた!🚙中には県が乗っている。

 相手はジープだ、決着は簡単についた。

「俺を誰だと思ってんだよ!」  

 俺は県に👎した。

 ※カーチェイスに敗北するとGAME OVER、最初に戻る。  


 1月13日

 夢から覚めると残酷な現実が待ち受けていた。俺は2通りの選択を迫られていた。

 Aいじめられてると正直に電話をする。

 B仮病の電話を使う


 Aを選ぶと上司から逆襲される。

 Bを選ぶとレストランで食べてるところを見つかってクビになる。GAME OVER

 

 A 

 俺はスマホでコーディネーターの宇佐美恵美うさみえみを呼び出した。

「一色君、どうしたの?」

「実は県さんからパワハラを受けているんです」

「今日は休んでいいわ、県さんには私から言い聞かせておくから」

 俺はホッとした。冷蔵庫からサンドイッチと野菜ジュースを出して朝食をとった。

 スマホのゲームやテレビを見たりして至福のひとときを過ごした。壁掛け電波時計を見ると、もうじきで11時半だ。魔病まびょうが蔓延してるから外に出たくない。不織布マスクをしてアパートの外に出た。途中で耳の部分が切れてしまう。

「嫌な予感がする」

 スーパーの前で妖怪に遭遇する。👻

 妖怪は赤ん坊の姿をしていた。俺は妖怪について詳しかった。大和国(今の奈良県)に赤子っていう妖怪がいたらしい。

 明治時代の妖怪絵巻『ばけもの絵巻』(作者不詳)に「赤子の怪」と題して記述されている。あるところに化物屋敷と呼ばれて誰も寄り付かない家があった。ある剣術者が化物の正体を見極めようとその家に泊まったところ、夜中に障子の向こうから、誰かが踊っているような音が聞こえた。覗き見ると、生まれたばかりの赤ん坊のような者が踊っており、しかもどんどん数を増し、遂には数百人にも達した。剣術者は斬り払おうと太刀に手をかけたものの、手がすくんでしまった。どうすることもできない内に、夜明けと共に赤子たちは消え去ったという。

 赤ん坊の妖怪は悪いことをすると魔力が使えるようになると教えてくれる。

「教えてくれてありがとう」

「それじゃ頑張ってね?」

 赤子は姿を消した。

 スーパーでウレタンマスク(通気性がよく機動性が高いが、妖怪に遭遇しやすい)か不織布マスク(通気性が悪く機動性が低いが、妖怪に遭遇しにくい)、どちらにしようか迷っていた。

 俺はウレタンマスクを選んだ。

 

 スーパーで鮭おにぎりとペットボトルのお茶を買った。店から出るとかなつぶてって妖怪が現れた。

 

 かなつぶては、大和国奈良坂で金礫という武器を使って人々から略奪を働いたという化生の者。金礫、金飛礫とも。平安時代末期の治承3年(1179年)頃に平康頼が記した仏教説話集『宝物集』の中で鈴鹿山の立烏帽子と並んで奈良坂のかなつぶてという盗賊が処刑されたことが記されている。


 『宝物集』で記された金礫の説話が御伽草子『鈴鹿の草子』『田村の草子』などの田村語りに採り入れられると、金礫を打つこの化生の名前として、こんざう、りゃうせんなどがみえる。『田村の草子』によるあらすじは次のとおりである。


 大和国奈良坂に金礫を打つりょうせんという化生の者が現れて都への貢ぎ物や多くの人の命を奪ったので、帝は稲瀬五郎坂上俊宗に鬼退治の宣旨を下した。俊宗は500騎の兵を連れて奈良坂へと向かい、良い小袖を木々の枝に掛け並べてりょうせんを待った。すると背丈が2丈(約6メートル)もある異様な風体の法師が現れ、並び立てた着物を置いていけと大笑いする声が聞こえた。俊宗が着物を渡すわけにはいかないというと、法師は三郎礫と名付けられた金の礫を打ち、俊宗は扇で落とした。続けて次郎礫が打たれるが、これも俊宗に打ち落とされ、最後に太郎礫を打つも鐙の端で蹴落とされた。りょうせんは山へと逃げはじめるが、俊宗が三代に渡って受け継いできた神通の鏑矢を射放つと7日7夜に渡ってりょうせんを追い続け、りょうせんはついに降伏する。りょうせんを捕縛した俊宗は都へと凱旋して御門に閲覧し、りょうせんは船岡山で処刑されることとなった。その首は8人ががりで切り落とされて獄門にかけられ、行き交う者たちにさらされた。

   

 🎲おっと!こんなところにサイコロが落ちている!

 ⚀スーパーシューズ  

 ⚁自転車

 ⚂バイク

 ⚃車

 ⚄ヘリ

 ⚅飛行機

 

 俺はサイコロを振った。⚄

 実は俺の本性はスパイだ。ヒューイコブラを操縦してその場から逃げた。乗員2人。前席に射撃手、後席に操縦士が縦一列に搭乗する、タンデム式コックピットを採用し、機首下に機関砲を搭載する。これは後に各国で開発されることになる戦闘・攻撃ヘリコプターでも、広く採用されることになる。

 20mm機関砲やTOW 対戦車ミサイルなどを主武装とし、ベトナム戦争や湾岸戦争などの多くの戦闘に投入された。

 

 あっという間に日は暮れた。🌇

 アパートの前に辿り着くと目出し帽をかぶった男がゆっくりと近づいていた。男の正体は県だった。

「何チクってんだ!おまえのせいで仕事辞めるハメになっちまったろうが!」

 県はダガーナイフを懐から抜いて襲いかかってきた。⚀

 スーパーシューズを手に入れた。高橋尚子みたいに早く走ることが出来る。⚀が出た場合は歩行タイプの敵(チンピラやアサシン)から逃げることが可能だ。

 県から逃げ切った俺は武器屋に行ってナイフを盗むことを決めた。

 県を倒さない限り悪夢は永久的に続く。


 コテージタイプの武器屋、テンガロンハットをかぶった親父が「何にするんだ?」と奇策に話しかけてきた。俺はダガーナイフ🗡を手に取り店の外へと急いだ。「待て、この野郎!」

 親父がハンドガンをぶっ放した。攻撃を躱すには⚂以上を出さないといけない。

 ⚃を出した。俺は防弾車両に乗り込み逃げることに成功した。


 窃盗5POINT

 詐欺10POINT

 殺人未遂15POINT

 殺人 20POINT


 10POINT 小回復

 20POINT 炎撃 弱い敵倒せる

 30POINT 中回復

 40POINT 雷撃 中ボスキャラ倒せる

 50POINT 大回復

 100POINT 地震撃 ラスボスキャラ倒せる

 

 ダガーナイフを盗んだことで5P手に入れた。だが、まだ妖怪を倒すことは出来ないみたいだ。

 アパートに戻りシャワーを浴びようとしてると宇佐美からLINEが届いていた。

『明日は何かあるといけないから、付き添ってあげる。7時に高架橋の下で待っていて』

 何て優しい人なんだ。  

 シャワーを浴び、冷蔵庫から缶ビールを出すとグビグビ飲んだ。ビールを飲むとセーブ出来る。

  

『DREAM・CHASE』STAGE2 

今回は一色がジープで、県がスーパーカーだ。デットヒートに負けると現実世界での県とのバトルで苦戦を強いられる。

 

 夢から覚め、朝食を摂り身支度を整え高架下に徒歩で向かった。

 そこにいたのは県だった。宇佐美の死体が転がっていた。背中にナイフが突き刺さっている。

「まんまと引っかかったな?」

 県はヒッヒッヒと笑って、もう1本のナイフで襲いかかってきた。このバトルは逃げることが出来ない。俺はバク転で県の攻撃を回避し、背後へと転瞬すると奴の頸動脈をダガーナイフで掻き切った。夥しい血を迸らせて県は死んだ。

 県を殺して20P手に入れ、炎撃が使えるようになった。5P残っている。


 殺人現場に警視庁刑事課の織田勝蔵おだかつぞうがやって来た。彼は定年間際の刑事で、階級は警部。死体が2つ、女性は背中にナイフが突き刺さり、男性は首を切られていた。

 新人の木下邦男きのしたくにおはまだ25歳、階級は巡査部長だ。

「ひでぇな、こりゃ。男が女を刺し殺してから頸動脈を切って自殺ってとこですかね?」

「凶器はどこに行ったんだ?」

「あっ、そうか……」

「これだから新人は……」

「もしかしたら、ハデスの仕業かも知れないな」

「ハデス?」

「伝説のスパイだ」

 ギリシア神話の死者の国を支配する神。 クロノスとレアの子で、ゼウスとポセイドンの兄弟にあたる。 プルトンPluton(富める者の意)ともよばれるが、これは万物を生み育てる大地のもつ富の力を表し、地下の神としてその地下の富を所有することからハデスの別名となった。

「ハデスは姿を隠すことのできる不思議な兜を手にしていた」

「なるほど……そこから」


 俺は列車を使って朝霧市って海岸沿いの街にやって来た。洋服屋で黒いキャップを手に入れ、目深に被った。マスクもしてるからより安全だ。魔病のせいでマスク姿の人間なんてたくさんいる。

 宿探しに困った。ビジネスホテルに入ろうと思ったが指名手配されてるだろうからやめた方がいい。

 寺の近くにやってきたときだった、怪物が現れた。

 笑い地蔵わらいじぞうって妖怪で静岡県湖西市に伝わる、人を化かしたという地蔵。

 もしかしたら静岡の人間がこの辺で死んで妖怪になったのだろうか?

 潮見坂という地域にある六地蔵が人を化かすという噂があった。白須賀宿に泊まっていた若侍がそれを聞き、自分が化け物を退治すると意気込んで地蔵のもとへ向かった。


 若侍が六地蔵のもとへ着くと、6体ある地蔵の内の1体が一つ目の入道に化け、赤い舌を見せながらゲラゲラと大声で笑い始めた。すかさず若侍が刀を抜いて斬りつけると、入道は悲鳴をあげて消え去った。


 次の日に若侍が再び地蔵を見に行くと、地蔵の1体が倒れており、袈裟懸けに斬られた跡があった。以来、この地蔵は袈裟きり地蔵、笑い地蔵などと呼ばれるようになったという。


 俺は炎撃を使って笑い地蔵を倒すことに成功した。今回は無傷で倒すことが出来たが、次の敵がどんな奴か分からない。窃盗をすれば5P手に入り、10Pになる。そうすりゃ小回復が出来る。

 さて、何を盗もうか?サングラス?それとも拳銃?悩んだ挙げ句サングラスを盗むことにした。

 朝霧駅西口に俺はやってきた。雑貨屋に足を踏み入れる。レイバンのサングラスをポケットに入れた。🕶

 小回復が出来るようになった。

「君、ちょっと!」

 中年女の万引きGメンに声をかけられた。女性は車を使って追跡をしてくる。

 俺はサイコロを振った。⚄

 ヒューイコブラを疾駆させ、鯨島くじらじまって小さな島に上陸した。

 島には燕尾服、三角帽子という出で立ちの男がたくさんいた。この島は海賊の島らしい。

 マスケット銃を俺に向けて、「どこから来た!?」と怒鳴りつける。サングラス、マスク、キャップという怪しい格好だ。こんなんじゃ島の外に出るわけにはいかない。

「火星から来た三田です」と、俺は適当に誤魔化した。

「なめてんのか、てめぇ!?」 

 俺はあっという間に囲まれた。

 マジムンが現れた!マジムンは、沖縄県や鹿児島県奄美群島に伝わる悪霊の総称。様々なマジムンが伝えられている。動物の姿をしたマジムンに股をくぐられると死んでしまうので、決して股をくぐられてはいけないといわれる。また奄美群島の一部ではハブのことをマジムンと呼び、伝承では神の使いであるともされ、マジムンの中では唯一実在する生物である。

 でっぷりとした海賊はネズミタイプのマジムンに股をくぐられて血を吐きながら死んだ。🐀

「ケン!」

 モヤシみたいな海賊は嘆き悲しんでいる。

「泣いてる場合じゃない!者ども三田を助けろ!」

 頭領が叫んだ。海賊たちはマスケット銃やカトラスという剣でマジムンと戦った。だが、魔法を扱えない海賊たちは次々に死んでいった。

 俺はアカングワーマジムン(赤ん坊の死霊。四つんばいで人間の股をくぐろうとする。動物のマジムンと同じく、股をくぐられると死んでしまうといわれる)、牛マジムン(牛の姿をしたマジムン。沖縄県読谷村では真っ黒な牛のようなものという。ある空手家が牛マジムンと闘い、激闘の末に牛マジムンの角を追って組み伏せたが、空手家も疲労のあまり気絶してしまい、翌朝に気づくとその角はがんの飾り物に変わっていたという)を炎撃で倒した。ネズミマジムンには逃げられてしまった。  

「お主腕が立つな?我々に力を貸さないか?」

 男の名は甲賀三十郎こうがさんじゅうろうというらしい。俺は甲賀の軍門に下った。

 俺は甲賀たちと酒を酌み交わした。ジョッキ生めちゃうめー!🍻

 炎撃のMPが0になった。妖怪との戦いは不利になる。

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