コントミン
IMEI
第1話
「今日何か体につけてる?」
ユウナは僕の体にまんべんなく鼻を這わせて、くんくんと音を立てながら空気を嗅いでいた。犬のようなそれに、思わず苦笑してしまう。
「いや、何もつけてないよ。それに、さっき一緒にシャワーを浴びたじゃないか」
こちらの声を聞いてるのか聞いてないのかわからないような返事をする。ひとしきり嗅ぐ作業を続けた後、少し首を傾げる。そんな仕草も可愛らしくて、額にキスを落とす。早く服を着ないと、体を冷やしてしまうよ、と抱き締める。
「このままだと服取れないんですけど」
愛おしい彼女は少し意地悪そうに笑った。
連絡が取れなくなる前のユウナについて、警察にいくつか質問をされていた。その間、僕はずっと彼女の、セックスをする前の仕草を思い出していた。セックスをする前も、した後も、僕の匂いを嗅ぐのだ。
特に変わったことがなかったか?そんなのは僕が聞きたい。
「その、ユウナさんという方の、苗字は?」
「…わかりません」
苗字も、職場も、友人関係も、家族構成も、地元がどこなのか。僕達の関係を維持するために、それらの情報は必要なかったのだろう。僕はまるで何も知らなかった。
ユウナはよく匂いを嗅ぎ、匂いで体調の変化をあててきた。僕の些細な感情の揺れ動きが体臭から回解読していた。鼻が効くなんてどころじゃなかったと思う。
「本当に、家出じゃあ無いんでしょうかねぇ」
警察官はあからさまに呆れた声を出して、身内の人が失踪届を出すんなら、わかりますけどねぇ。と、重たく気だるげに言う。
僕が感情的になって言い返すと、警察官はそのまま帰ってしまった。ユウナのことで頭がいっぱいになってしまって、何を怒鳴ったのか自分でも覚えていられなかった。
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