第184話 悪者が見付かりましたよ
「あら。みんな口を押さえちゃって、声を出すなって脅されてたみたいね」
「なるほどです。安心して下さい、皆さんを助けに来ました。声を出しても大丈夫ですからね」
僕がそう言うと一人の子が、少し小さい声で答えてくれました。
「た、助けに? 隣の部屋に見張りがいるのよ? だ、大丈夫なの?」
「はい。今はこの部屋に中の音が外に聞こえないようにする結界が張られてます。ですから声は聞こえませんよ。えっと、皆さんは人攫いにあったんだよね?」
僕がそう聞くと、喋ってきてくれた子がみんなを見ると、みんな頷いています。
頷いてない子はいませんので、やっぱり全員人攫いにあった被害者みたいですね。
「はい。全員この街のスラムにあった孤児院に住んでた者です。女の子限定で、隣の大陸からの品物をなんでも買い取ってくれるって仕事をしていて、みんな売りに行ってたのですが、何回目かの時に、もっと頼みたい事があって、それに必要な物を渡すからって壁の奥に誘われて、中に入ったら捕まったの」
「ライ、大体分かったし、ここで話しても仕方がないでしょ? 一旦スラムに連れて帰った方が安心するんじゃない?」
それもそうですね、みんな僕が助けにきたって言っても半信半疑な顔をしていますし。
「では皆さん、一旦スラムに戻りましょう。転移!」
パッ
「ルミナ、この子達の魚も出すから焼いてくれる?」
ルミナ達が魚の前で、今か今かと待ち構えているところに、転移で戻ってきたのですが、返事はなくてぽかんと口を開けてるだけです。
もちろん、転移で連れてきた子達もです。
仕方ありませんので、焚き火を用意して、ムルムルにまた串付きで出してもらって、魚を焼いていきます。
そこでやっと、ルミナが何か言おうとしています。
「あ、あ、あ、あんた達なんでここにいるんだ! 違う町に向かったって聞いてたぞ! それにライ! 突然消えたり現れたりしやがって、ビックリするだろ!」
「あ、ごめんなさい。この子達は、向こうの大陸の品物を買い取ってくれるおじさんに攫われて、閉じ込められてたんだ。だから助けてきちゃいました。それよりそっちの魚焦げちゃいますよ?」
「え? あわわわ! ナナシも早く火から離せ! 苦くなっちまうぞ!」
くふふ。ルミナのお陰でこっちの連れてきた子達も『ここ孤児院だよ! ルミナもナナシもいるし』『嘘っ! あそこから帰ってこれたの!』『やったー! 明日が初出荷って言ってたから助かったよー』口々に喋り出して、抱き合ったりして凄く喜んでます。
「ライ、外にもポツポツ帰ってきてるわよ、ほらほら魚焼いちゃいなさい、あんた達も嬉しいのは分かったから手伝いなさいね」
「
「ルミナ、食べてからで良いですよ、追加でお肉でも焼きましょうか?」
「「
くふふ。楽しくなってきましたので、バーベキューにしちゃいましょう。
(ライ、ちゃんとさっきの奴らの動きは見ておきなさいね、後でやっつけるんでしょ?)
(うん。もちろんだよ。でも、どこに連れてく予定だったのかな? もしかして、向こうの大陸に?)
(それはないでしょうね。海の上なら逃げられる事は無いかもしれないけど、見付かれば、自分も逃げられないのよ? まあ海路で自分の船を持っているなら別だけどね、この大陸で、この国とは別の国に連れていくなら二十人でしょ? 不可能ではないわね。海路の方が陸路より見付かる心配もないし、安全かもしれないわね)
(なるほどです。港に入らないで、秘密の船着き場があればいくらでも内緒で別の国には行けますからね。っと、よし、窯と鉄板を用意して、あっ、捕まえに行きましょうか、悪者さん達が動き出しましたよ)
「ルミナ、ここにお肉を置いておくからみんなで焼いて食べててくれるかな? 足りなかったらまた後で出すからお腹いっぱい食べて良いよ」
ルミナは口をモグモグしていますので、今度は喋らず頷いてくれました。
「ん~と、港からは出てませんから、とりあえずさっきの倉庫ですね、転移!」
パッ
「あっ、さっきの馬車が沢山止まっていたところですね、あっちの屋根に転移!」
パッ
屋根から下を、そっと覗くと三人のおじさんが、お喋りする声が聞こえてきました。
「――ギーク伯爵領行きの馬車はこれで全部だな?」
「おう。十台用意するのがどんだけ難しいか分かってんだろうな? 金はしっかりいただくぞ?」
「当たり前だ、この街では後二回いける計算だ、二回目の候補者も何人かは目を付けてある。だが初回の二十人をギーク伯爵へ届ければ、二十人分はとりあえず金はもらえる。後は気に入ってもらえ無ければ次回はないがな、明日の夜明け前に積み込むからよ、今夜は羽目を外すなよ?」
「馬車を借りてそんな金はねえさ、それより御者は見付かったのか?」
「ああ、もうすぐここに集まるって、ほらあいつらだ、今港に入ってきた八人だ。全員俺の手下だから安心しろ、商品に手を出すなと言ってある」
「当たり前だ。そんな事してみろ、暗殺ギルドが動くぜ、何てったってギークは――」
「やめねえか! 誰が聞いてるか分かんねえだろ! 伯爵は幹部って話だ、俺らの首なんかすぐ飛んじまうぞ」
「げっ、そ、そうだった、よしみんな集まったな手分けして馬の世話と終われば俺達も飯にするぞ」
(ギークってヤツが悪者みたいね、暗殺ギルドって言ってたけど、それも潰すんでしょ?)
(そうだね、悪者みたいですし、やっちゃいましょう!)
馬さんが馬車から外される前に、気絶してもらいましょうかね······。
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