第165話 カヤッツとマリーア
帝国側の門を出て、教国との中立地帯を歩きます。
数百メートルの空き地。草原が広がり所々岩があるくらいで、ほとんどなにもありません。ここにダンジョンは無いようなので、少し物足りない気もしますけど、今は仕方がないですね。
軽く走れば、あっという間に教国側の門に到着して入門待ちの列に並びました。
歩きの人はほとんど抜いて来ちゃいましたから、十人ほどいるだけで、僕の番が回ってきました。
「よし止まれ。身分証を」
「はい。お願いします」
いつも通り僕とテラの分を出して、門番のおじさんに見せます。
「冒険者か······え?」
門番さんは目をこすり、何度もギルドカードと僕を見比べて、『え?』を繰り返しています。
その様子を見ていた詰所で休憩していた人達が、三人ぞろぞろと出て来て僕が出しているギルドカードに目をやると。
「Sランクだと! こんなガキが!」
ん~と、ガキとか、酷いですね。
「おいキサマ! ギルドカードの偽造は、重大な犯罪だぞ! 動くなよガキ! ただちに拘束だ!」
「さっきからガキガキと、僕は十歳で立派な冒険者です! 失礼ですよ!」
「歯向かう気か! 取り囲むぞ! そして一気に取り押さえるんだ!」
「おう!」
そう言って僕を四人で取り囲み、今にも飛びかかって来そうでしたから、自己紹介をします。
「僕は、サーバル男爵改め、サーバル伯爵家三男、ライリール・ドライ・サーバルです! それからSランク冒険者です! 二つ名は『スライム使い』と呼ばれています!」
門の近くにいる人全員に聞こえたんじゃないかってくらい大きな声で目の前の、最初にいた門番さんを睨んであげました。
「この期に及んでまだ言うか! 抜刀! 手足の一本くらいは構わん! 貴族の名まで語るとは、極刑だぞ! 痛い目にあいたくなければ大人しくしておけよ! おらっ!」
そう言って目の前のおじさんが突っ込んで来ましたので、振り下ろされる剣を避け、ぐるぐるで一気に魔力を抜いてあげました。
剣を振り切ったところ、僕の真横まで来た瞬間に気絶して、そこで崩れ落ちました。
二人目は真後ろから連続の突きを放ってきますが、こちらも少し横にずれ避けると魔力を抜いて、残りの二人はそれを見て止まりましたので、魔力はギリギリ残して睨んであげます。
「こ、こんな事をしてただで済むと思っているのか! 衛兵を呼べ! 国境の警備隊もだ! 門番を二人も倒しやがったぞ!」
「クソガキが! すぐに犯罪奴隷にしてやるからな! すぅ――」
残りの二人のおじさん達も同じようですので、抜いちゃいましょう。
ピィィーと笛を鳴らしかけたところで気絶させ、一応最後の方に話しかけます。
「僕はSランク冒険者です。このギルドカードは本物です。なぜ分からないのですか!」
「だからギルドカードの偽造は重罪だと言っているだろうが! 三人も殺しやがって! クソガキが! だがもう遅いぞ、そいつが吹いた笛は魔道具だ。ここを守る者達に知らせる笛だ、すぐに援軍が駆けつけてくる」
「ライ、話にならないわね、話を聞こうともしないじゃない」
「うん。なんなのでしょうね」
(そうね、あまりにも、
(うん。やっちゃいましょう、ぐるぐる~ほいっと!)
「貴様こそなんなのだぁ······」
ドサッと襲いかかってきた四人は倒しきり、奴隷の腕輪を嵌めておきます。
そして、魔道具はさっきの笛だけしか持っていませんので、四人からそれも収納してしまいました。
そこで、まだ詰所から覗いている方に声をかけます。
「入国は大丈夫ですか?」
「聞いても無駄よ、あの中の者はみんなそうだし」
「ねえあなた、本当にSランクなの?」
「はい。最初からそう言ってるのですが、ここの方は話を聞いてくれません」
詰所の中にいる方のぐるぐるをして、魔道具も収納しながら、後ろを向くと、少し離れた所から話しかけてきたのは、僕の後ろに並んでた冒険者風のお姉さんです。
「そのギルドカードで帝国は出てきたのよね?」
「はい。驚かれはしましたけど、見て下さい本物ですからね、すぐに分かってくれましたよ」
お姉さんに向けて、ギルドカードを見せてあげると、恐る恐る近付いて来て、覗き込み。
「うん、間違いないわね、門番! この方は本物です! ただちに入国の手続きをしてあげてください!」
「良いですよ、ここの門番さんは人攫い達ですから捕まえちゃいますので」
「え? 人攫い?」
僕はお姉さんに説明をしながら詰所の中と、呼ばれて、駆けつけてくる衛兵や、警備隊の、人攫いグループの方だけを、テラの教えてくれる通り気絶させていきます。
「はい。最近よく聞く色々な所で人攫いをしている方達です。今、気絶して倒れていってる方達全員ですね」
「嘘······門番が全滅だし、そっちの駆けつけてきていた方達もほとんどそうなの······」
「はい。ん~と、奴隷の腕輪が足りませんね、どうしましょうか」
「ライ、まだまだ沢山こっちに向かってきてるわね、カヤッツに任せましょう。ちょっとだけお屋敷に行って、お願いしてから戻って来れば良いじゃない」
そうですね。えっと、カヤッツは、いました。
「お姉さん、ほんの少しだけ消えますが、驚かないで下さいね、転移!」
パッ
お屋敷の庭の木の下にいた、カヤッツとマリーア。ちゅってしているところでしたが今は急いでますので、一言だけ。
「くふふふ。さぼっちゃ駄目ですよ~。ですが二人は結婚するのですね、おめでとうございます。前からお似合いだと思っていました」
二人はきゅっと抱き合ったまま驚いた顔で僕を見てきました。
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