第153話 危ないところでした

 運び屋さん達を捕まえた街道に戻ると、ちょうど街道の先から何台かの馬車がこちらに向かってきています。


 ふと気付いたのですが、僕が戻ってきた場所には馬車の下に落ちていたのか、偽金貨が何枚も落ちていましたので、拾っておくことに。


「ライ、脇によせた時に草の中にも落ちてるみたいよ、ほら、あの花が咲いてるところとか」


「本当だ、結構な数になりそうですね。仕方ありません、こんなの残しておくことはできませんし、地道に拾いましょう」


 そして僕は、街道脇に移動して全部入りそうな木箱を出してそこに拾っては放り込んでを繰り返していると。


「おい、あの金貨まさか······おい止めろ! そこのガキ! その金貨は俺達の物かも知れねえ! 勝手に触んじゃねえ!」


「あん? だがあいつらがいねえぞ? まあ、どちらにしても、金貨はいただくが、っとどうどう止まれや。おら! 手に持ってる金貨はその箱に入れてそのまま動くんじゃねえぞ!」


 少し通りすぎましたが、馬車は止まり、男達、えっと十二人いますね。が、馬車から降りて僕の方へ、やって来てくれます。


「あら。ちょうど来てくれたみたいね、待ったり、通り過ぎていたら面倒だったけど助かったわね」


「うんうん。これならすぐに連れていけますから大助かりです」


 そしてすぐに僕達の前まで来てくれました。


「なにをにやけてやがるこのガキ、頭悪いんじゃねえのか?」


「いえ、探す手間が省けたので喜んでいたところです」


 そして男達の魔道具を······面倒ですね、服ごと収納。もちろん武器なんかもです。


「な、な、な、なんだ! 何がどうなってやがる!」


「げっ! 裸じゃねえか! 武器、武器もねえぞ!」


「はい。魔道具を持っている方がいましたので、回収させてもらいました、運び屋さんですよね? あなた達を呼んだ方は先に捕まえましたから」


「やべぇぞ! こんなことバラク! っと、アブねえバレたら確実に殺されるぞ! 俺は悪いが抜けさせてもらうぜ、そうだな、この大陸から出れば追っては来ないだろ、お前達はどうする?」


「ちっ! しゃあねえな、俺も逃げるぜ――」


 ん~と、逃がしはしませんが、今の内に奴隷の腕輪嵌めてしまいましょうか、気絶させてまた後で起こすのも面倒ですから。


(そうね、まるっきり油断してるじゃない。どうやって服が無くなったのか教えてあげたのに、ライがただの子供だと思って、なんの驚異も感じてないようね)


(だよね、まあやっちゃいますか、せ~の)


 シュッと一番手前に来ていたおじさんから順番に奴隷の魔道具を手首に次々と嵌めていきます。残り二人のところで『なんだこの腕輪?』とか聞こえましたがもう遅いですよ。


 僕は両手に一つずつ腕輪を持ち、おじさん二人の間を、すり抜け様にスポスポッと嵌めて、通りすぎたところで止まり、振り返って命令します。


「ではおじさん達、命令です。そうですね、まずはこの場に散らばっている偽金貨を拾い集めて下さい。もちろん逃げるのは禁止です。はい始めて下さい」


「んな言うこと聞く分けねえだろ! ガキが! いつの間に後ろに行ったか知らねえがふざけやがって、ぶち殺すぞ! んだこれは、体が勝手に!」


「何なんだよこれ! ってかこの腕輪奴隷の腕輪じゃねえか! おいガキすぐに外しやがれ!」


「駄目ですよ、あなた達は捕まったのですから。この後は良くて犯罪奴隷でしょうね、それに聞き逃していたかも知れませんのでもう一度言いますが、あなた達を呼んだ方は先に捕まえてありますよ。だから次に来るあなた達をここで待っていたのですから」


「それに言いかけてたけど、バラクーダとタシンサは捕まえたわよ。あなた達と一緒で奴隷になってね。ほらほらまだ沢山落ちてるんだから早く拾ってしまいなさい」


 その後しばらく時間はかかりましたが偽金貨を拾い終わり、グチグチと文句を言うおじさん達を馬車の近くに行くように命令して、タシンサ男爵のお屋敷に戻りました。


 先に捕まえた方達と同じ様に、転移で玄関前に到着した僕は、玄関の戸を開け、そこにいたメイドさんにお願いして、捕まえて来た事を執務室にいるみんなに伝えてもらいました。


 数分後にはまたさっきと同じメンバーで、バラクーダ辺境伯とタシンサ男爵は頭からスポッと被る奴隷の服を着ていましたけどね。


「早かったな、ライ。ふむ、十二人か」


「はい。それから偽金貨がまだ落ちていましたから拾ってきました。ここに置きますね。ほいっと!」


 ズン、と石畳の上に出した五十センチくらいの小さな木箱満載の偽金貨。


「なるほど、良くやった。この程度でも世に出回る事を防げたのだ、ライよもうお昼になるが、昼食はどうするのだ? ここで一緒に――」


「あ、ああー!」


 突然テラが叫び出しました。僕は慌てているテラを見て、思い出しました!


「ああー! 不味いですよ! と、父さん胡椒! 胡椒はどこに植えたら良いですか!」


「駄目! 間に合わない! とりあえずお屋敷にお願いライ!」


「おい! 今度は胡椒か――」


「転移!」


 パッ


 また池の近くですが仕方ありませんが今度は急でしたが、対岸に転移することができました。


「んぐぐぐっ、重いぃー!」


 見ると蔓が伸び、テラの頭から垂れ下がり始めていました。


「テラ! 僕が持つから頭から抜いて!」


「んぐぐくっ、任せたわライ! えい!」


 テラの頭から受け取った胡椒。


「ライ! 胡椒だと! 構わんどこでもやってくれ!」


 あれ? 父さん達まで連れてきてしまったようです······って、それどころではありませんでした!


 僕は腕に絡みかけていた蔓を引きはずし、無人の草原に思いきり投げました。

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