第四章
第119話 帝国に行きましょう
「ライあそこの花が良いわね、近くに下ろしてくれる?」
「うん」
桃色の花が咲いている場所に近づき肩から下ろしてあげると小さな花を抜き取り頭に刺しました。
いつもの事ですが、どうなっているのか不思議ですね。
「良いわよ。とりあえずバラなんとかって人の領地を通り抜けるのよね?」
「うん。分かれ道からもうバラマンディ侯爵領だからね。地図を見る限り一つ街を越えて、すぐに峠があるからそれを越せば帝国だよ。物凄く険しくて、馬車も四頭引きの馬車でないと、越えるのに一週間くらいかかるって聞いたことがあるけど」
「どうせライは走って越えるんでしょ? さあ行くわよ。早く知らせてあげないと、沢山の人が迷惑するかもなんだからね」
「うん。じゃあムルムルお願いね。行っくよー! しっかり掴まっていてねー!」
ドンッ!
お屋敷でブドウを植え終わった後、僕達はそのまま転移で旅立ちました。
もちろんその事を書いた手紙にはプシュケとリントの黒貨とリントのギルドカードも入れて転移で食堂のテーブルへ送っておきました。今頃読んでるかな? 今度会う時はちょっと怒られるかもしれませんが、あの後話をしていたらずるずると滞在しちゃいそうでしたからね。
おっと前にゴブリンさんが出てきましたね。さくさく倒して収納。その後は何台か馬車も追い抜いて、街も越え、峠の中腹で夕方になりました。
ここは主要交易路線としては、寂れていますね。それでも数台の馬車が停まっていて、水場は馬さんがずらっと二十頭は並んでいますので、踏まれたりしてはいけませんし、僕は水場から少し離れてテントを張りました。
「この子はもう良いわね。うんしょ」
テラは朝に頭に刺した花を抜き取り、ぽいっと捨て、テントと僕が火を起こした焚き火の回りをなにか無いか探しています。
「ねえテラ?」
「ん? 何? あっ! これは良いかも! くふふふ。お父様は喜んでくれるかしら」
何か頭に乗せて帰ってきたテラ。小さな粒々がいっぱい付いたイモ虫さんのような、······なんでしょうね?
「ねえ。頭に乗せるヤツの提案をしようとしてたんだけど、見付けちゃったみたいだね」
「ん? 何か他に良いの考えたの?」
くふふ。なんだか粒々のポニーテールみたいです。
「うん。胡椒とか、希少だからどうかなって思ってね。まあ今度で良いよ。ところでそれは?」
「ぬふふふ。考える事が重なっちゃったわね。これはなんと! ライが考えていた胡椒よ! これが沢山作られれば良い産業になるわよ」
「おおー! それは凄いです! よくそんなのありましたね」
「そうね、本当は暖かいところで育つんだけど、ここは火山で、地熱が良い感じなのよね。だから
「うん。沢山作れればサーバル領の目玉になりますよ♪」
「でも、そこまで暖かい? 冬場でも二十度くらい欲しいわね」
ん~、どうかな? 冬は雪も降ったよね。暖かい部屋で育てれば良いのかな? まあそれは今度考えましょう。
お湯も沸きましたから夕食を――。
「ねえ。あなたはソロの冒険者?」
鍋にシチューの食材を放り込んでいると一人の女性冒険者が僕の作る途中のシチューから目を離さずそんな事を聞いてきました。
「はい。そうですが何かお困りですか?」
そう聞き返したのですが、テラがテントの中から驚いた声を出しました。
「ああー! あなたなんでこんなところにいるのよ!」
「あら。テラ様。ご無沙汰しております。私はこの山の向こう帝国とやらに向かう途中です。私の眷属が捕まっているようなので助けに行くところですよ」
テラのお知り合いみたいですね。ではキチンとご挨拶しないと駄目ですね。
「こんにちは。初めまして。サーバル男爵家のライリール・ドライ・サーバルです。よろしくお願いいたしますね。テラのお知り合いなのでライと読んで下さい」
「あらあら。ご丁寧に。私はネメシスです。よろしくねライ君」
「ネメシス私の質問はなぜ、ここに、いるのか、を聞いてるの!」
んと、仲良くないのかな? テラはネメシスさんを睨んでいますし、こうなれば僕はテラの味方ですから守ってあげないとですね。
「スクルドが捕まってるみたいなのよ。だから迎えに行くところですよテラ様。ここには転移が封じられていますからしかたなくですね」
ネメシスさんはやれやれと言った感じで肩をすぼめ首を横に振り答えました。
ですがやはりテラは怒った顔のままです。こうなったらぐるぐるしちゃいましょうか。
(止めておきなさい。私に任せておいて)
「で、なぜ声をかけたの? 事と次第によっちゃあなたを送還するわよ」
「え? あのテラ様? なぜそんなに怒っているのですか? その、今はお腹がすいて、少年一人だし、言えばごはんを分けてもらえるかなとか考えてました······」
は? 明日の分も作りましたから二人分は余裕ですけど。
「本当でしょうね! あなたは――」
っ!
「早いです! テラこっちへ!」
僕はテラの事を掬い上げるように胸に抱え、ムルムルも少し乱暴ですが掴んで抱え込みました。
「きゃっ! 何!」
「もう真上にきますよ! 一旦お屋敷に転――」
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