第95話 怖いアリがいるそうです

「父さん達は何の話をしてるのですか?」


「ん? ああ。帝国がヒュドラを卵で操ったと分かり、ライが倒して事なきを得たんだが、もちろんその卵も捜索中だ。しかし、帝国の奴らからファイアーアントとの言葉が多数出てきたんだ」


 ファイアーアントですか、確か真っ赤なアリで頭が五十センチくらいある大きさ、それと数が物凄く多くて、盾や鎧の素材に使われているアリだったよね。


「ライ坊っちゃん、そのファイアーアントを帝国は操ろうと画策しているようなのですよ」


「また卵でも使うのでしょうか? でもアリなら土の中にいると思いますから卵もその中ですし、取りに行けませんよね?」


(一つ可能性があるとすれば、ファイアーアントは身の危険を感じた時に仲間を呼ぶ習性があるので、それをどうにかして利用すればできなくはないのですが)


「ファイアーアントを捕まえ、我が国に警戒させずに運ぶ。そしてそこで身の危険を感じるように痛め続ける事ができるのかどうかとな。相当不可能に近いとは思うのだが」


 そうですよね。それより痛め付ける方が後で大群に襲われてしまうのですから······っ! 奴隷さんを使って無理矢理ならできるのでしょうか!


(ライ、ならその前にやってしまえば良いじゃない。ナインテール、場所を教えて、私達がやっつけてくるから)


(うふふ。そうですね、場所は先ほどの街道からずっと森の奥ですね、海に出る手前の山が全てアリの巣になっていたはずですよ)


 ガルさんの村からさらに奥ですね。


「お母さん達はどうするの? なんならこのお屋敷で住んでもらってもいいけど」


「こら! なんて事を言い出すんだライ。確かに庭はこの国一番の広さだから住んでもらっても良いが、······子供達の事を考えるとそれも良いのか? ナインテールの子はその、言っては悪いが毛皮の需要は計り知れない。そうだな。ナインテールよ、ここに住むか?」


(うふふ。よろしいのですか? 確かにここなら広さも申し分ありませんから、それに、魔物の森も近いですので狩りにも行けますね。お邪魔させてもらいたいと思います)


「なんと! 魔の森で狩りか、それは助かる。ライ達がこっそり狩りをしていた頃より増えていたからな。ナインテールよ、よろしく頼む」


(はい)


 こうしてお屋敷にナインテール親子が住むことになりました。仲良くしてくれると嬉しいですね。


 ヒュドラを渡し、少し僕達用にさばいてもらって、ガルさんの村へ戻りました。


 既にダンジョンへ向かったようですからほとんどいませんね、五人ほどの気配があるだけです。


「じゃあ行こうか、プシュケはまた背負子でお願いしますね」


 背負子を出して、乗ってもらい準備完了です。準備中も魔力を遠くまで広げ気配を探っていきます。


「ねえライ。お義父様にファイアーアント討伐の事は本当に言わなくて良かったの? 普通なら相当危険と言うより無謀な事よ」


「うん。なんだか旅に出たのに帰ってばかりだし、あまり顔を見せるの少し恥ずかしくって。次はダンジョンを楽しんで、何かお土産ができた時に帰るくらいにしないと、旅に出てるって感じじゃないからね」


「はぁ。お義父様やお義母様、それにお屋敷の方はライの顔が見れて喜んでると思うわよ。そりゃまあ帰りすぎかなとは少し思うけどね。まあ良いわ、早速アリをやっつけに行くわよ!」


「うん」


 くふふ。テラがお義父様、お義母様って呼んでくれたし頑張ろう♪


(あっ! ち、違うのよ! 違わないけど、そんなのじゃないの! ほらほらアリは見付かったの!)


 またムルムルを掴んでくいくい伸ばしながら顔を赤くしてます。ちゅ。


(な、な、な! も、もう! は、早くアリをやっつけるのよ!)


 うんうん。凄く可愛いです。よし、気を取り直して、見ているのですが多いです。


「テラ。この方向なんだけど、物凄く多いですね」


「あっちね。んん神眼~。ざっと五百万匹くらいかしら、こんなものよ。少ないと数十匹の巣もあるけど、ひと山を巣にしているなら少ないくらいね。もうぐるぐるしてるんでしょ、見たら途中にもトレントの林があるし、やっつけながら行けば着く頃にはファイアーアントも魔力切らしてるわよ」


「うん。じゃあ途中の魔物もやっつけながら行くから、プシュケもリントもお願いね。いっくよー!」


 村の端まで加速しながら走り、そこから枝に飛び上がります。後はいつも通り枝から枝に飛び移りながら移動する事二十分、辺り一面倒れた木、トレントがいました。


「は~い。トレントの林に到着です。トレントは顔の目と目の間にウインドアローで穴を開けると――」


「ライ。その必要は無いわよ。トレントは魔力が無くなったところで終わりだから収納できるわよ」


「そうなの? じゃあ収納!」


 収納したとたん辺り一面の倒れたトレントが無くなり、大きな空き地が出来ました。


「ね。じゃあ次はオーク、その次がゴブリンだからそれは頑張ってね」


「やりますよ~! ウインドアローを連発してやりますから!」


「にゅふふふ。リントのウインドアローが火を吹くにゃ!」


 リント、残念だけどウインドアローじゃあ火は出ないと思うな。


 その後オーク、ゴブリン、村こそありませんでしたが沢山のグループを倒し、徐々にファイアーアントの巣に近付いてきました。


 そして、後百メートルほど進んだ先に、気絶して倒れたオークとファイアーアントが二十対百ほどいるでしょうか、その中の何体かは傷付き倒れていますよね。腕の無いオークや、完全に潰されてるファイアーアントも。たぶんここで戦っていたのでしょうね。


「よし、オークは頭で、ファイアーアントはウインドカッターで体の細くなっているところを切れば大丈夫かな。倒しちゃいましょう!」


「待て! 俺達の獲物の横取りか?」


 さあ撃つぞと言うところで声をかけられました。


 えっと、何かやらかしてしまいましたか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る