第87話 鍛冶屋さんにて

『その革鎧は俺達にくれよ!』


『駄目だと言ってるだろう。これは装備する者に合わせて作ってある。だからお前達の体型には合わん。違う物を見繕ってやる』


 鍛冶屋さんの入口からそんな声が聞こえてきました。


『そんなの知るか! 俺様はそれが気に入ったんだ! ちと小いせえがなんとかなるだろ! さもねえと――』


 こっそり覗くと二人のぽっちゃり体型した男の子、僕と同じくらいの年齢かな? が顔を真っ赤にして、おじさんに詰め寄っているところでした。


「何度言われても駄目だ。いくら街の領主の子供だとは言え、そんな我が儘が通る筋は無い」


「よし良い度胸だ。父さんに言い付けてこの店を潰して貰う! 覚悟しておけ!」


 そうまくし立て、お店の床につばを吐き、こっちに向かってきます。

 まあ、出入口はここしかないので当たり前ですが、そのぽっちゃり君達は僕を見て、突っかかってきました。


「なに見てやがる! 俺様はこの街の領主の子供だぞ! 跪け! ん? 中々可愛いを連れてるな、よしその女は俺様付きの侍女にしてやる」


 なんですって! プシュケは僕の大切な娘ですよ! 確かここの領主は確か同じ男爵でしたね。でしたら父さんに迷惑がかかるかもしれません······落ち着け、ここは挨拶からです。


「こんにちは。初めまして、サーバル男爵家三男。ライリール・ドライ・サーバルと言います。こちらの領主と言えば、ノルマーラー男爵様、我が家と同じ男爵家ですね」


 僕がそう言うと、『サーバル男爵家だと、あそこには父さんが滅茶苦茶世話になってるって』『そうだよ兄ちゃん、剣聖様のだよ』とかぼそぼそ兄弟だったのですね、確かによく似てます。

 それに、ここの領主様の長男次男さんは兄さん達と同じ学院にいますから、この子達は三男以降って事ですよね。



「こ、これはサーバル男爵家の方だとは気付きもせず暴言を。どうかお許し願いたく。ノルマーラー男爵家のロカ・クワトロ・ノルマーラーと言います」


「は、初めまして、ティミド・シンコ・ノルマーラーです」


 んと、四男、五男なのですね。ここの領主様もうちと同じで三男の方も僕と同じ今年に入って家名を捨てていたはずですし、と言うことはこの二人は僕より歳下って事になります。


「うん。では僕の大切なプシュケに謝っていただけますね」


「――ライ······私の事を大切なんて」


 横でプシュケが息をのみ僕を見詰めていますが今は目の前のロカですね。


そのロカの顔が怒りに歪みましたが、直ぐに戻し、頭こそ下げませんが、渋々と言った感じで。


「すまなかった、先程の事は取り消す。では。ティミド行くぞ!」


「待ってよ兄ちゃん!」


 そう言うとさっさと僕達の横を通りすぎ、出ていってしまいました。


 ですが、通りすぎる際、『チッ』と舌打ちしながらでしたので、やはり口だけの謝罪だったようです。貴族絡みのテンプレはできればやめてほしいのですが······父さんに迷惑かもだし。


「すまないな変な所を見せてしまった。ライ君は貴族の坊っちゃんだったか、喋り方が丁寧だからそうかもしれんとは思っていたがそれも剣聖の息子とは驚いた」


おっとまたまた僕の悪いクセですね。おじさんは椅子から立ち上がりそんな事を言ってきました。でも流石父さん。


「えへへ。父さんが有名だと僕も自分が褒められてるみたいで嬉しいです」


「ふはは。剣聖がライ君くらいの時はもっと滅茶苦茶だったが息子は良い子だ。ふははははは」


 そう言うと、僕の鎧と真新しい革の胸当てを奥の棚から手に取り、お店の真ん中にあるテーブルに乗せました。


「こちらはライ君のだな、古くなって傷んでいたところや縫い糸が切れた所などは交換して縫い直した。くくく。私の造った物だ、よく残っていたもんだ」


「え! 父さんが昔使ってた物だって言ってましたよ! おじさんが造ったのですか!」


「ああ。もう二十年以上前だな、丁寧に手入れして使われていたのが分かる。鍛冶士としてはこれほど嬉しいことは無い」


 おじさんの目は、本当に自分の子供ができたら僕もあんな顔になるのかな。でも、テラと僕の子供だと、やっぱり小さいのかな?


(こ! こりょ子供!も!)


 またテラがムルムルを。くふふ。聞いてたんだね♪ 絶対その子供は可愛いよ。もちろんテラもね。


(――!)


「よし装備して、違和感がないか確認してくれるか?」


「はい!」


「よし次は嬢ちゃんのだな、こっちは簡単だ頭から被って、横で締め込むだけで良い。ゴブリン程度なら傷もつかん。それと、お腹を守る革の服も用意した」


 僕のはお腹までくる鎧、ベストのような感じですが、プシュケの物は厚手の服と、胸当てです。大事なところをちゃんと守りながら一番大事な心臓を胸当てで守るのですね。


 よし、僕も最後の留め具をはめて体を動かしてみます。


 おお! お屋敷から旅立った時より断然動きやすいですし、引っ掛かるところもありません。


「おじさん物凄くピッタリだし軽くも感じます。あつらえたみたいですよ♪」


「うむ。それは良かった、だが体は常に育つものだ、その都度手入れをしていけば、しばらくはそれで間に合うだろう」


「ありがとうございます」


「おじさん装備はこれで良いですか?」


 プシュケも装備ができたようですね。

 紺色に染めた革の鎧下と、茶色い胸当てがきちんと装備できてるみたいです。


「うむ。良いだろう簡単な補習用の革の歯切れと、糸と針をつけてやろう。代金は全部ギルに払わせるから心配するな」


「良いのですか? ギルさん色々取られちゃったみたいですし」


「構わん。やつも貴族だそれくらいはなんとでもやるだろう。それに冒険者なんだ勝手に稼ぐだろう。くははは」


 ん~、そう言ってますが······そうです!


「おじさんはヒュドラで装備を造れますよね?」


「ヒュドラか。うむ。造れるが今は革の在庫も、牙なんかも品薄で手に入らんぞ」


「ライ、私たちが倒したヒュドラでギルさんの装備を贈り物にするつもりなら大賛成です♪ このおじさんに造って貰おうよ」


 プシュケも同じ意見のようですね。


「おじさん。ヒュドラの皮を預けますからお願いできますか?」


「ふむ。本当に持っているようだな。昼間のあの騒ぎの物か、あるなら造るぞ? それはどこに持ってるんだ?」


「では今から解体に行きましょう」


 僕は薄暗くなった店の外におじさんを引っ張り転移で町の外に飛びました。


「おお! これがギルの言ってた転移か!」


 おじさんが驚いている内にさっさと解体してしまいましょう。


 まあ、出した途端おじさんは大きなヒュドラの首を見て一瞬だけ驚き止まっていましたが。


「なんだこれはー!」



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