第15話 公爵領ヘ その一
門を出て少し馬車を走らせると分かれ道に差し掛かりました、僕達の進む方向は、もと来た道を戻る旅路になります。
今日は盗賊達をやっつけた場所での夜営になる予定です。
御者台にティと並んで座り、沢山の荷物を積んだ馬車の後ろから、少し登り坂になったところで追い抜くため横に出て、お馬さんには少し頑張って貰います。
馬車の中身は全て収納していますので、馬車と僕達の重さだけなので、軽快に加速し追い抜きました。
「風が気持ちいいですわね、私は庭で馬車の訓練をしたので、こうして街道を御者台に乗ったのは初めての経験になります」
「それもそうだよね、公爵令嬢だもん、護衛対象者が外にいるべきじゃないからね、今は街娘と言っても、そうなんだって思われる格好だから実際顔を見たことある人しか分からないよ、まさか御者台に乗っている女の子が公爵令嬢だなんて思わないもの」
灰染めの生地を使いスカートを作り、シャツは僕用の物を着て貰ってます。
「ですわね、このストローハットも良いですわ、きちんと日陰を作って首筋の日焼けを防いでくれます、手は手袋をすれば見えませんが、ドレスですとどうしても首筋は見えてしまいますからね」
「気に入ってくれて良かったです、その白く透き通った綺麗な肌が赤くなっちゃうのを見たくなかったからね」
(まあまあ、綺麗だなんて、うふふ、ライったらお上手ね)
「そうだ、手袋は今夜作るから、今日はその膝掛けに手は隠しておいてね」
「はい♪ よろしくお願いいたします」
二時間ごとの休憩を挟み、それでもまだ明るい時間に夜営予定地に到着しました。
僕達よりも先に到着した人達も、各々夜営の準備と、馬の水やりや、馬車の不具合を見ているのか、底に潜り作業している方もいます。
僕達は馬さんに水、塩、飼い葉をやりながらブラッシング。
暗くなる前に、焚き火の用意を済ませ、お湯を沸かしてお茶を飲もうとしていたのですが、若い冒険者と思われる五名の方が僕達の所に向かってやってきます。
「ティ、一応警戒はしておいてね、絡まれても僕に任せて、後ろに隠れてくれて良いから」
ティは、こくんと頷き、座っているベンチからいつでも立ち上がる事が出来るように身構えています。
そして、目の前、約二メートルの所で止まり、五名の一人、体格も良く、腰に剣を携えた大男と言っても良いくらいの方が口を開いた。
「おいガキ、良い馬車を持ってるじゃねえか、俺達に譲りな」
「嫌ですが」
何を言ってるのか、そんなのあげる訳ないじゃないですか。
ん? これって異世界テンプレート!
「なっ! ガキがおとなしく渡さねえと分かってんだろうな、こっちは五人、そっちはガキ二人だ」
こんなところで絡まれイベントが! うんうん、えっと確か煽るとさらに良いんでしたね。
「バカですか? 僕は嫌ですと言いましたが、あっ! バカだから理解出来ないのですね、それは申し訳ありません」
くふふふ、真っ赤になってしまったよ~♪ おっと危ない、武器に手を着けるまで煽りまくるのでしたよね。
「はぁぁ、バカさん達良いですか、頭の悪い、顔も悪いですが、バカでも分かるように説明しますが、あなた方、頭の悪いバカ、この行為は盗賊と同じで、犯罪奴隷になりますよ」
さあ! かかってきなさい!
「チッ、行くぞ! こんなガキ放っておいて酒でも飲むぞ!」
え? そ、そんな、間違ったの?
「何だよリーダー、言われたい放題で情けねえなぁ、俺がやってやるよ、おら! さっさと馬車を置いてどっかいっちまいな!」
男の一人がロングソードを抜き、僕達に向けてきました。
そうです、それでこそテンプレですよ! 僕はそいつの魔力をぐるぐる、一気に魔力欠乏にさせ、その場で気絶させてあげました。倒れた手の先が焚き火に突っ込みましたので、火をぐるぐるさせて火が手を避けるようにしてあげます。
「おい! 大丈夫か! 手がやべえ、引っ張れ!」
倒れた男を焚き火から遠ざけ、あっ、ちょっと火傷してますね、それに剣が焚き火の真ん中に残ってますが、どうしましょうか。
「てめえ! 何かしやがったのか!」
「え? バカだから転けたのですよね? 普通焚き火に手は突っ込みませんし、この剣返しますね」
焚き火をつついていた木の棒で剣を引っ掛け、冒険者達に向かって返してあげます。
最初に声をかけてきた男は剣を受け取りましたが
「うおっ、てめえ! ってアヂィー! くそガキが! てめえらやっちまうぞ!」
あははは、剣は熱くなっていたようですね、その後、残りの四人も、ロングソード、短剣やナイフを抜き、僕達に向けてきましたので、先ほどと同じ様にぐるぐるさせて気絶させ、持ち物を全て収納、ロープで手足を縛り上げておきます。
「ふう、少し楽しみが薄い気もしますが、絡まれテンプレート、外(夜営)バージョンいただきましたよ♪」
裸の拘束された男達を広場の隅に引きずって行き、木にくくりつけて逃げられない様にしておきました。
「ライ、あの方達は
警戒を解いてほっとした顔でティが聴いてきました。
「明日馬車の天井にくくりつけて逃げられない様にして次の町まで連れて行こう、それで衛兵さんにお任せかな」
「うんうん、それで良いと思うよ、でもせめてパンツくらい履かせておいた方が良いかも、あなた達二人はなんとも思ってないかもしれないけど」
テラが肩の上でそんなこと言うけど、心配なんだよね。
「でも何か隠し持っているかも知れませんわ、私はあれで良いと思います、ですが馬車の天井にくくりつけるのは馬さんが重いと可哀想ですので、歩かせましょう」
「そうそう、そうだよね、僕もそれを考えてたのですが、そっか、馬さんの事を考えたら明日も半日上り坂ですから、うん、歩いて貰いましょう」
「はぁぁ、まあ良いわ」
テラはお手上げって感じで、ムルムルの上で寝転がってしまいました。
変なテラ、あははは。
その後の夕食は、シチューがまだまだありますから、二人分とパンを食べ、ティは魔狼形の物を、僕はオークにしました少し大きいサイズの物を食べました。
食後は馬車に入り、パジャマに着替え、寝ることにしました。
見張りはって? なんとテラがここの広場に咲いている花を元気付けるから、「私が見張っておくわ!」と足元に咲いていた黄色の花を頭に刺し、むむむ~、と力むと花は元気になり、頭から引き抜くと、ポイッと投げ捨て、違う種類の花にムルムルを引き連れて向かっていきました。
投げ捨てた花を見ると、元の位置に抜いた形跡も無く、地に生えていました······異世界の不思議ですね。
翌朝、朝食後、馬車の用意をして、盗賊を馬車の後ろに縛り付けるため、寝ているところを起こしたのですが······。
「た、頼む、見逃してくれ!」
「おら達が悪かった!」
「せめてパンツは!」
など、
「おい、あいつらなにやったんだ」「キャー、裸じゃない」「ち、ちょっと! その方達はうちの護衛依頼を請けてる奴じゃないか!」「あれってAランクの!」「あのまま街道を行くのか、やべ~」······
「ライ、何か言ってるようですが? 良いのですか?」
「あははは、護衛依頼をしてるのに盗賊しちゃダメだよね、返してあげたいけれど、一度町に連れて行って奴隷にして貰わないと、また悪さするからね」
「た、頼む! ちょっとだけ何があったのか教えて欲しい! その五名は私の商隊の護衛なのです!」
馬車の前に飛び出してきて、そんなことを言うので、停まりましたが。
「あ、ありがとうございます、はぁ、はぁ、はぁ」
走ってきたので息の荒い小太りのおじさんが、馬車の前から御者台の横にやって来ました。
「この五名はですね、昨晩ですが僕達の馬車を寄越せと剣やナイフで脅してきた盗賊ですが、商人さんは盗賊の方ですか? それなら捕まえないといけないのですが」
「い、いえいえ、私はただの商人です! その五名がそんな事を、なら仕方がないのですが、おい、お前達、この少年の言った事は本当ですか!」
後ろの五名に声を掛ける商人さん。
「そ、そんな事はしてねえ! デタラメだ!」
「そ、そうだ! 俺は火傷を負わされたんだ! 見てくれこの手を!」
「はぁぁ、あなた達はそんな嘘が通ると思っているのですか?」
呆れてしまいますよ本当に。
「商人さん、商人ならその盗賊達の鑑定が出来ますよね、称号が見えますので分かりますよ」
「ぬ、鑑定! 強盗だと·······、君の言う通りだ、次の町で衛兵に付き出すの予定ですよね」
「はい、そのつもりです」
少し考え事をする商人さん。
「では君達の後を付いて行き、衛兵の所で私はこの者達を犯罪奴隷として買うことにします、すいませんが馬車を回してきますので少しだけお待ちいただけますか?」
それなら良いかも。
「はい、お待ちしておきますね」
「ありがとうございます、ではすぐに!」
商人さんはまたパタパタ走り自分の馬車に戻り、二台の馬車を連ねてこちらに合流し街道に出て、軽快に次の町に向け走り出しました。
盗賊達は小走りです。
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