第14話 襲撃の夜が明けて

「何か驚くような方からの依頼なのですか?」


 隊長さんは僕の質問には答えず部下の方達に命令を小さな声で、それでもきちんと聞こえる様に言い放った。


「今動ける全衛兵を領主邸に集めよ、シャクティ・アン・ブラフマー公爵令嬢暗殺を企てたのは、領主、サーント辺境伯令嬢マリグノだ!」


 なんと、ここの領主さんの娘さんがティを狙ったの! なんでまた······分からないけど、狙ってくるならことごとく跳ね返してやる。


「隊長さん、ティを狙ったのはどうしてでしょうか? ティがそのマリグノって人に悪い事をしてしまったのですか?」


 隊長さんは少し困った顔をして、話してくれます。


「確実ではないが、あくまでも、もしかしたらと思った事だ、そこは勘違いしないで貰いたい」


「はい」


 僕は頷きます。


「第一王子との婚約者候補なんだよ二人共に、その流れが一番しっくり来る、元々はシャクティ令嬢が 一人だけの婚約者であったのだが、マリグノ令嬢に手を出したのだ、王子が、頼むから内緒にしてくれよ」


「はい」


「十七歳のコション第一王子が、同じ歳のマリグノ令嬢を候補にあげるために手を出した、あるいは手を出させた、正室になるためのと考えればつじつまがあってしまうからな」


 そうか、婚約者がいたのか······いや、そんなことは関係無い! 守ってあげるって決めたから、ティを傷付けようとする奴は僕が許さない!


「分かりました、では僕はティの側で来た奴を片っ端からやっつける事にしますね」


「うむ、守っていてくれると俺達も動きやすい、よし、部屋の奴らを連れて行くとしよう五名私に付いて来い、残りはここで見張りながら、魔道具を使い皆を呼び出せ!」


「「はっ!はっ!」」


 僕は隊長さん達を先導し宿に入り二階へ、部屋にいた六名を引き渡し、報酬は後日詰め所でと言う事で、話が終わり、足早に隊長さん達は部屋を出ていった。


 僕はお風呂場にベッドを置き寝かせていたティの元に行き、そのままお風呂で寝ることにしましたけど、はぁぁ、僕が気に入った子は僕がお相手にはならないのかなぁ、前世でいつもお風呂に入れてくれていた、お姉さんも憧れていたのに、結婚しちゃったからね、僕はあの時九歳、お姉さんは二十八歳だったのですが、いえ、次に担当になったお姉さんも好きでしたよ、既に結婚して、僕と同い年の子供がいるって言ってましたが。


 後は、検査の時に会う女の先生は、お母さんのお母さんくらいの人でしたし、車イスで移動の時にいつも会う女性もお婆さんばかりでしたからね。


 はぁぁぁふ、眠くなってきました、おやすみ。



 翌朝、お風呂で目を覚まし、一瞬知らない天井だって言いそうになりましたが、まだ寝ているティや、テラを起こしてしまうかも知れませんから、音を立てずに、お風呂場から出て、洗面所で歯を磨き顔を洗っていると、ティがテラとムルムルを頭に乗せ起きてきました。


「おはよう、良く寝れた?」


「ふぁぁい、一度起こされた分まだ寝足りないような気もしますが、早く領地に戻りませんとね」


 あはは、大きなあくびが可愛いです、絶対に守ってあげないといけませんね


「その事で聴きたい事が、ティってコション王子様の婚約者だよね? それにマリグノって人に命を狙われるような事ってある?」


「うへぇ、それはお断りしているのですが、あっちがしつこくしてくるのですよ、父も、『あんな奴にはやらん!』って王様にも言ってくれているのですが」


 本当に嫌そうに顔を歪めています。


「マリグノさんは、コション王子さんと仲良くしているのですからどうぞ勝手にって思っているのですが、事あるごとに、私に文句を言ってくるのです」


(それに今はライの事が気になって仕方ありませんし、お父さんに相談してみようかしら、先にお母さんからかな?)


 やれやれといった感じです、これは僕にも! チャンスが! いえ、自重しましょうか、まだ知り合ったばかりですから、送っていく過程でもっと仲良くなれるように頑張りましょう!


 おっと、また物思いに、一応知らせておきませんとね。


「ティ、昨日襲ってきた奴らなんだけどね、マリグノがティ、君の暗殺を頼んだ様なんだ、もしかするとあの盗賊もその可能性があるかもしれない、そっちは依頼書も無かったから、偶然かも知れないけれどね」


「暗殺を! マリグノさんが······」


 僕は、ふるえるティを抱き寄せ背中をぽんぽんと叩き落ち着かせます。


「僕が守るって、約束するよ」


「はい」


(ああ、ライ、コション王子の気持ち悪い笑いと全然違いますわ、はぁぁ)


 近距離で目と目が合い、ティはぽや~っと僕の顔を見つめてきます。


 コンコンコン


 タイミングの悪いことに、ノックの音で良い雰囲気が霧散してしまいました。


「僕が出るよ、ティは顔は洗えるよね?」


「うふふ、はい、教えて貰いましたから、歯も大丈夫ですわよ、テラ師匠、ムルムルさん、今日も悪いところを教えて下さいね」


「まかせて! さあ行くよ♪」


 テラとムルムルを頭に乗せたまま、洗面台に僕から離れ向き直った。


 僕は部屋の扉に向き直って、向かいながら声をかけます。


「はい、どちら様ですか?」


『私だ、昨日の報酬と、昨晩の報告に来た』


 隊長さんのようですね。


「今開けますね」


 カチャ


「どうぞ」


「失礼する」


 隊長さんと、冒険者ギルドのサブマスターが部屋に入ってきました。


 エルフのお姉さん、サブマスターが深く頭を下げ、金貨を僕に差し出してきました。


「ライ様、この度は本当にご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした、報酬をお受け取りください」


 金貨を受け取り、サブマスターの肩に手を添え、頭を上げて貰います。


「はい、確かに受け取りましたお姉さんは悪くないのですから、頭は下げなくても良いのですよ」


「いえ、それと昨晩の件でも冒険者がその様な依頼を受け、襲った、あの中に、サブマスター、二人いるのですが私とは違う者がその襲撃に加わっていましたので、冒険者ギルドの代表、本来ならギルドマスターが来なくてはいけないのですが」


「まぁ、そんな事だ、謝罪だけでも受け取ってやってくれないかな」


 それは、いたたまれないですよね、あはは。


「分かりました、謝罪を受け取りました、で、昨夜の件は? あっ、その椅子にお座り下さい」


 二脚の椅子を二人に進め、僕は顔を洗ってさっぱりしたティと一緒にベッドに腰掛けました。


「結論から言うと、マリグノは王都の学院にいる、辺境伯様は今回の事、あまりの事に卒倒し、寝込んでしまわれた、早馬を走らせ王様、私の父経由になるが王城勤めなのでな今日の夜遅くには、報告が上がるだろう」


 お父さんの辺境伯様は絡んでいなかったのは良かったのですが、娘のしでかした事とはいえ何のお叱り、お咎めも受けない事は無いでしょうね。


「分かりました、ではまだ公爵領に着くまで気は抜けませんね」


「そうだな、だがライ君がいるなら安心だな、シャクティお嬢様をお守り出来るだろうからな、あははは、おっと、昨日の十二名分の引き取った分だ」


 大銀貨二枚と銀貨四枚の収入となりました。


「では俺達はこれで失礼する、旅の安全を祈る、ではな」


「失礼します」


 二人は部屋から出て行き、残された僕達は荷物をまとめ収納し、朝食をいただきに一階へと下りました。


「まあ、玉子がふわふわです」


「うん、凄く美味しいし、この腸詰めもハーブと黒胡椒が使われているのかな、僕これ好き」


 この宿の食事は夜と朝の二回だけですが、どちらも凄く美味しい良い宿を紹介して貰ったと実感しました。


 食事を終え、馬車に乗り込み、走り出します。


 入ってきた門は出発のため集まった馬車や徒歩の方達で賑わい、屋台まで出ています。


 車列の一番後ろに並び、国境の街を出発です。

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