第12話 贋金大量

 僕はギルドマスターを睨み付けました。


「あの! 渡すのは隊長さんにではなくて僕達にですよね!」


 ギルドマスターと隊長さん、そしてギルド内の皆さんが僕に視線を集め、耳を澄まします。


「い、いや」


「それに僕達をこの大勢が見ている前で犯罪者呼ばわりした謝罪も頂いておりません!」


「チッ、ガキがちょっと間違えただけじゃないか、鬼の首を取ったように意気がるんじゃねえぞ、これ渡したらさっさと出ていけクソガキ共が!」


 もう、完全に怒りましたよ! お父さん、家名を使わせていただきます!


「ギルドマスター、正式にサーバル男爵家ライリール・ドライ・サーバルとして、謝罪を求めます! 見た目で判断するなど、不愉快です!」


 その言葉を聞きサーっと青ざめるギルドマスター、追い討ちを掛けるようにティも言葉を発します。


「ブラフマー公爵家嫡子、シャクティ・アン・ブラフマーからも、謝罪? そんな物では済ませませんよ! 大変不愉快です!」


 男爵の次に公爵家が出てきてギルドマスターは青から白に変わり、ガタガタ震えだし、持っていた金貨は手からこぼれ落ち、“しんっ” としたギルドの床に落ちて、“キン” と音を立て、転がり僕達の足元に転がってきました。


 ギルド内の皆が跪き、ギルドマスターと、僕達以外で立っている者はいません。


「皆さん、皆さんはお立ちください、普通に接して貰えた方が嬉しいので」


 皆さんは、そろ~っと立ち上がり、静かにこちらを見ています。


「ところで、それがギルドマスターの謝罪の仕方ですか? ティ、僕は三男ですからこれもありだろうとは思うけれど、ティは嫡子だよね、お父さんにこのギルドマスターって怒られるよね?」


「怒られますわね、帰った後、報告すれば、このギルドマスターさん処刑もあり得ますね」


「ライ君ではなくて、ライリール殿、貴族様だったのですね」


「はい、継承権は兄に有りますが、僕は十歳で家名を持ったまま冒険者になりましたので、成人までは一応貴族ですね、成人すれば、一個人になりますけれど、なのでライで良いですよ」


「あはは、俺と一緒だな、三男からはよほど金持ちの貴族でも無い限り、冒険者だよな、俺は父のつてで、衛兵になったが、おっとそれよりギルドマスター、私は貴方を不敬罪で捕らえなければなりません、公爵家の嫡子、シャクティお嬢様のお父上は子煩悩とお聞きしているのでな、おい、拘束せよ!」


「「はっ!」」


 カウンターの中に向かう衛兵達を見て、ギルドマスターは、「身体強化!」と叫び、その場から一気にカウンターを乗り越え、ティに向かって収納から取り出したであろう刃渡り四十センチ程の短剣を突き刺すように加速しながら向かって来た。


「死ね! 鎧通し!」


 技名なのか、叫びながら、ティに突っ込んできましたが、僕はギルドマスターの魔力を限界まで無茶苦茶な方向にぐるぐる回す。


 ぐるぐるさせながら短剣を避け、ギルドマスターとティの間に入り、左袖を掴み、さらに懐に入り込み袖を下に引き下ろすと同時に背中を使ってギルドマスターの体を押し上げました。


 ズダンッ


 背中からギルドマスターは床に叩き付けられ、さらに魔力欠乏で気絶をして、泡を吹き動かなくなりました。


「隊長さん、捕縛お願いしますね」


「あははは、いやいや、流石に今のは焦ったが、ライ君、ティお嬢様、危険に晒してしまい申し訳ない、しかし盗賊を捕まえた程だ、ライ君が強いのは当たり前か」


「あははは、勢いを利用しただけですよ、元ギルドマスターもあのまま捕まっていれば、もしかしたら奴隷落ちで済んだのかも知れませんが、ティを狙うなんて、同情の余地もありませんね」


 ティは僕に数歩ですが小走りに駆け寄り、ぎゅっと僕の胸に抱きついて来ました。


「こ、怖かったですわ」


 ぷるぷる震えるティを抱き締めかえし、優しく背中を撫でてあげます。


 テラも肩からティの頭をぽんぽんと叩き、ムルムルは僕の頭からティの頭に乗り移り、ぷるぷる。


「大丈夫ですよ、僕がティを護りますから」


「は、はい」

(ああ、どうしましょう、凄く胸がドキドキしますわ)


「よし、ギルドマスター、いや、元だな捕縛して、牢に叩き込め!」


「「はっ!はっ!」」


 衛兵さん達は気絶した元ギルドマスターをロープで縛り上げ、二人がかりで隣の詰め所に連れて行きました。


「ライ君、ほら、ん? 軽いな?」


 隊長さんが落ちた金貨を拾い上げ、僕に渡そうとして、何やら呟いていたと思ったら、ナイフを取り出し金貨に傷を着けました。


「チッ、罪が一つ増えるかも知れん、この金貨は偽物だ、奴の収納の中身を調べろ! 奴隷の首輪を使用しても構わん!」


「はっ!」


 なんと、渡そうと自分の収納から出した金貨は贋金にせがねでした、この事を知って報酬として渡そうとしていたなら、何と言う罪かは分かりませんが、罪状が増えることでしょう。


 衛兵さんがまた一人、冒険者ギルドから隣の詰め所に走り去ります。


「サブギルドマスター! ギルド内の貨幣全ての精査を!」


「は、はいぃ~!」


 おお、奥でエルフのお姉さんが返事をして、一つだけ大きい机に駆けて行き机の引き出しから鍵束を取り出し、その後ろにあった金庫を開け、鑑定をしようとしているところに、隊長さんが一言。


「偽装の魔法が掛けられているかも知れない、表面に傷を付ければ偽装は解ける」


「は、はい!」


 ふむふむ、ならぐるぐるして偽装を解いてあげましょう♪ ほいっと♪


「なっ! 手に持っていた物も傷を付けるまでもなく贋金になりました! 金庫内は······大銀貨以上が全て贋金ですよ!」


「おい! 俺達さっき大銀貨貰ったところだぜ! これも偽物か!」


 横のカウンターで依頼完了の報酬として貰った大銀貨をカウンターに叩き付け、お怒りの様です。


「あっ、お兄さん、僕が見てみましょうか?」


「へ? き、貴族様!」


 僕が隣にいたことを忘れていた様で、“びくぅ” ッとなってます。あはは。


「ほいっと!」


 銀貨は魔力を帯びていましたから、偽物だとは思いましたが、やはり偽物でした。


「偽物ですね、他の方は大銀貨以上持っている方がいるなら、偽装を解除しますので僕のところに来て下さい」


 お兄さんはペコペコと頭を下げ、他の大銀貨以上を持っている冒険者達は一列に並び、僕はティを抱き締めたまま解除して行き、八割が偽物と判明しました。


「隊長さん、贋金が沢山出ましたね」


「これは、個人で出来る範囲を越えているぞ、というかその力はなんだ? 魔法?」


 頭の上に、“?” を浮かべた隊長さん。


「いえ、魔力をいじって本来の働きをさせない様にしただけですよ、頑張ればたぶん誰でも出来ますよ」


 僕の耳元で小さく「無理ぃ~」とテラが言ってますが、継続して頑張るのがそんなに難しいのかな、あはは。


「そうなのか、他の魔力、と言うか魔力が弄れるなんて初めて聞くが」


 さらに、“?” の数を増やした隊長さん。


「そうだ、すまないが、先ほど渡した貨幣は無事か?」


 収納から出して調べる事にしましょう。


 ギルド内の視線が僕に集まる中、少し照れますが。


「そうですね、ほいっと! はい、魔力は帯びていないので大丈夫ですね、良ければ、詰め所の貨幣を見てみましょうか? ここでは報酬貰えないようですから、あっ、ちょっと待ってて下さいね」


 僕はサブギルドマスターさんに冒険者の登録と従魔登録とパーティー登録を頼みました。


 なんと、ムルムルの登録は当然のことです大丈夫でしたし、ティはいきなりEランクになり、テラも、「私は従魔ではなくて冒険者!」って、カウンターの上でサブマスターに熱弁して冒険者登録が出来てしまいました。が、テラはカード持てないので僕が一緒に持っておきますが。


 その後、詰め所に戻り、貨幣を精査して、少量ですが贋金が見付かり、今は元ギルドマスターの詰問に立ち会わないかと言われましたが、今夜の宿も取れていませんでしたからご辞退。


「流石国境の街ですわ、宿がこんなに沢山あります」


 衛兵さん達に教えて貰った宿が沢山建ち並ぶ通りを馬車で進み、隊長さんおすすめの宿に馬車を停め、滞りなく部屋も取れて宿の確保完了です。





 

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