第10話 馬車での夜営

 “ジュー” 熱々の鉄板で厚切り三センチのオークを焼いて貰っています。


 お兄さん達のリーダーさんはパーティー内で一番料理が上手いそうなので、お任せしました。


 表面を焼き終わり鉄板の上で肉を五ミリほどの厚さに切り分けていきます。


 後はパラパラと塩、ハーブ入りで味付けをして完成だということです。


 僕は小さなテーブルを出し、その上に籠に大量に入ったパンを取り出します。


「皆さん、パンもありますので食べて下さいね」


 皆は、パンを見て、“ぎょっ” っと、しますが、手にとって行きます。


「ライ君パンまで提供して貰ってすまないな」


「いえいえ、沢山焼いて収納してありますから気にしないで下さい、形は僕がやったので、変な形ですが、味は保証しますよ」


 マシューさん作の生地を僕が色々形をアレンジした物ですから不揃いです、あはは。


「美味しいですわ、形もこれは角うさぎですわね、目のところまで表現していますし、可愛いですわよ♪」


「うむ、俺のゴブリンも美味いが、ゴブリン形は······リアルだよな、あはは」


 魔物シリーズは半分絶賛、半分は苦笑いをされちゃいました。


 ちなみにそれはゴブリン村長ですよ、一番時間がかかった力作です。


 各々おのおの、パンとオーク肉を食べ始め、おなかも落ち着いて来た頃お兄さんが話しかけてきました。


「ライ君、今日はここで夜営して明日の朝出発、夕方には街に着くからそこまでは一緒に行こう」


「はい、五台も馬車の戦利品がありますからね、一番小さい僕達が捕まっていた馬車は僕達が使いますけど、それ以外は売れますよね?」


 欲しいならお兄さん達にあげても良いのですが。


「ああ、小さく型は古いが、堅牢な造りだからな、この馬車なら金貨一枚には確実になるだろうな、小回りもきくから、少人数で扱うには良い馬車だ、後のは人数的に増えれば良い馬車ばかりに見える、売値も金貨二枚近くになるだろうな」


「おお♪ 凄いです! ところでお兄さん達は使いませんか? 人数もいるようですから、馬車があれば移動も楽になりますよね? あの大きめの馬車なら皆で乗っても行けそうですよ」


 九人居ますから二台でも良いですよね。


 お兄さん達は顔を見合せ少し思案しているようです。


 そして少し話し合い、答えが出たようです。


「では、あの中の二番目に大きな馬車を貰っても良いかな、人数的にあれくらいあると助かる」


「はい、貰って下さい、別に二台でも良いですよ、あっ、そうすると馬さんのお世話が大変ですね」


「そうだな、この盗賊達の馬車は二頭引きばかりだから、流石に四頭は面倒がかかるからな、あははは」


 僕達のもそうだが、全て二頭引きだ、箱車ですからね、ほろなら一頭でも良さげですが、それでも上り坂の負担は大きそうです。


 盗賊達だって一台はほとんど飼い葉や馬車の修理用のパーツや馬具の予備なんかが積んでありましたから、馬さんのお世話きちんとしないとですね。


「あははは、そうですねなら残りは売ることにします」


 辺りも暗くなり、夜の見張りはお兄さん達がやってくれると言うので、僕達は馬車で寝ることにしました。


 綺麗になった室内に木箱のベッドを二つ造り、並べただけですが、それの上に僕が作ったマット(空気を入れて膨らませます)、家族にも大絶賛のマットを置いて布団も二組ありますよ♪ 寝具をセットし終えたのですが、ティがあんぐりと口を開け僕を見ていました。


「ティ、どうかしたの?」


「ライ、そんなベッドマット公爵家の私でも使ったことありませんわ、いえ、王様でも無いでしょうね」


 なんと! 公爵令嬢様でいらしたのですね!


 僕は、素早く跪き、お許しをして貰わねば、首が飛ぶより、お父さんやお母さん、兄達に迷惑がかかってしまいます。


「シャクティ様、これまでの不敬の数々、どうかご容赦をお願いいたします」


 そして深く頭を下げました。


「はわわわ! ら、ライ! 立って下さいませ! ライには感謝しかありませんから、不敬などございません、それとどうかこれまで通り、ティとお呼び下さいませ、そんな風だと私、哀しくなります」


「よ、良いの? そうだ」


 僕は深呼吸をして、自己紹介をやり直します。


「サーバル男爵家三男、ライリール・ドライ・サーバルです、ライとお呼び下さい」


「まあ、剣聖様のご子息の! では私も」


 姿勢を正し、深呼吸をしました。


「ブラフマー公爵家嫡子、シャクティ・アン・ブラフマーです、ティとお呼び下さい」


 そして、僕の肩の上からテラが。


「テラよ! そして騎獣ムルムルよ!」


「「ぶはっ!ぷふっ!」」


 僕とティはその様子を見て吹き出してしまい、せっかくの自己紹介が笑いに変わってしまいました。


「な、何よ! 私だって言えない肩書きくらいあるんですからね! ほらほら二人ともそんなカチカチなのはやめて、普通にさっきまでの喋り方で良いじゃん! ね! ムルムルもそう思うでしょ?」


 ぷるぷる


「ほ、ほら、ムルムルだって、“そうだ~” って言ってるわよ! たぶん!」


 たぶんかい! あははは、そうだよね、そっちの方が僕も嬉しいけれど。


「そうですわ! ライ、今まで通りでお願いいたしますわ」


「うん、よろしくねティ」


 うんうん、嬉しそうに笑うティってやっぱり凄く可愛いよね、公爵様の元にお帰しするまでは、このまま楽しく行きたいですね。


「はい、では明日は出発が早いとの事ですので、寝ましょう」


「うん、じゃあ光は小さくしておくね」


「お願いいたしますわ」


 ティは僕に背中を向け何かを待ってあるようです。


「えっと、もしかして、服を脱ぎたいのですか?」


「はい、侍女が居ませんのでお願いいたします」


「あははは、ティ、脱ぎ方教えるから、やってみない?」


「え? よろしいの? 侍女はやらせてくれませんから、教えて欲しいですわ」


 え? えっちな事は考えてませんよ、お着替えなんて、前世の時もナースさんにやって貰ってましたから、普通ですよね? ライリールに生まれ変わって初めて自分でお着替え出来た時はそれはもう嬉しかった物です。


「このドレスだと、前のボタンを外せば脱げますね、ティ、ほら首元のボタンここね」


「はい、これですねこれをどうすれば?」


 胸の少し上に一番上のボタンがあり、ティは胸元を引っ張り僕に示してきますので、僕のシャツのボタンを、見せ外し方、止め方を教えて行きます。


「ほら、こんな感じで」


「うんしょ、こらしょ、どうですか? 上手く出来ていますか?」


「うん、出来ているよ、ボタン外せばスルッと脱げるから、脱いだ後は皺にならないようにこのハンガーに掛けておくと良いんだよ」


 このハンガーも僕のお手製DIYの成果です。


「侍女もなぜこれを教えてくれないのでしょうか?」


「なんでだろうね、家のメイドさん達も最初は教えてくれなかったし、僕が自分で着替えだしたら、兄さん達も自分で着替えだしたよ」


 悪戦苦闘まではいきませんが、苦労しながらも、おなか辺りまでのボタンを外せ、袖から手の抜き方を教えました。


 “パサッ” っとドレスが床に落ち、コルセットだけを嵌めたティの出来上がりです。


「ライ♪ 脱げましたよ♪ あっ、コルセットは確かここの紐を引っ張ってましたね」


 ティはコルセットの縫上げてある紐の結び目を引っ張りほどいて、コルセットも外せました。


 見ると体にコルセットの後が残っていますが、すぽぽんティの完成です。


「ティ、おめでとう、そうだ、パジャマがないよね、それにパンツは?」


「はい、寝間着ありませんわね、パンツは用を足した後、履き方が分かりませんから履けませんので履いてませんわよ、脱ぐ時も苦労しましたわ」


 そっか、僕は前世ではずっとオムツだったから、パンツの履き方も知らなかったからね、よし、パンツは僕の予備で良いかな。


「そっか、なら僕の使っていないパンツ履きなよ、えっとね~、ほいっと!」


 普通の白い紐で縛る物しかありませんが、パジャマとパンツをティに渡し、履き方が分からないと言う事で、僕も着替えのため全部脱いで、見本を見せてあげました。


「うふふふ、出来ました♪ これで侍女に自慢して、弟にも教えて差し上げるわ」


「ねえ、ライ、ティ、あなた達ってお互い裸を見られても恥ずかしいとか思わない訳?」


「「」」


「はぁぁ、まあ、良いわ、ゆっくり私が教えてあげるわ」


 僕達は顔を見合せ、何を教えてくれるんだろうと少しわくわくしながら、隙間があったお互いのベッドを引っ付け、真ん中でテラ、ムルムルも交え、朝までゆっくり眠りました。












 

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