第7話 馬車の中にいますよ

「え~っと」


 いきなりの展開ですか! 初めての街で冒険者ギルドで絡まれイベントより先に盗賊イベントが来ちゃいましたよ! 順番飛ばしすぎでしょ! あれ、馬車ですか······襲われてる馬車を助けるってテンプレートは予想して、やってみたいランキングに入っていたけれど、乗っちゃってますね、あはは。


「混乱している様ですわね、無理もありませんわ、わたくしも酷く混乱しましたもの、盗賊は私達をラビリンス王国へ奴隷として売るために今向かっているところですわ」


 あっ、心配されているのに僕の悪い癖ですね、ついつい物思いに、ってか可愛い女の子ですね、その金髪碧眼の可愛い顔を下から見上げているって、これは膝枕ですか! 世の男性 (僕)が女の子にやって貰いたいシチュエーションのベストスリーに入る膝枕ですよ!


 おっと、そんなことを言っている場合ではないですね、確か盗賊は異世界ではやっつけても良いはずだったよね? 僕に出来るかどうかだけど、周りから感じる気配だと、そんなに強い気配はないからいけるとは思うのですが、まずは自己紹介からですね。


「そうなのですか、えっと僕はライリール、Eランクの冒険者です、ライと呼んでください」


 膝枕から未練がありますが頭をあげ、床に座ることにしました。


「シャクティよ、ティと呼んでくださいませ」


「ティだね、よろしくお願いします、で盗賊に僕、ティ、君もかな、捕まってラビリンス王国に奴隷として売られるため、この馬車で移動中、で合っているかな?」


「そうよ、私も昨日、夜営中に甘い香りの眠り薬を嗅がされて、気が付いた時にはこの馬車の中でしたわ。······あ、あの、あなたは、ライは何か飲み物を持ってないでしょうか? ここに入れられてから何も口にしていませんの」


「えっ? この暑い馬車の中で! ちょ、ちょっと待ってね!」


 僕は、マシューさんに搾ってもらったジュースにお塩を少し入れてティに手渡す、脱水なら確か塩分が必要だった筈です。


 大きめのマグカップを渡す時に手に触れたのですが、震えが出るほどに体調が悪かったのに、僕を膝枕をしてくれてたんだね。


 ティがコクンコクンとジュースを飲んでいる間に良く見ると、馬車の中は壁に手形や引っ掻いて傷を付けた様な跡が至るところに有ります。


 今までこの馬車で、人攫いに遭った沢山の人達の付けた痕跡なのでしょう。


 あっ! そう言えばテラとムルムルは大丈夫だろうか。


『ライ、私もムルムルもこの馬車に乗っているから心配しなくて大丈夫よ』


「えっ! テラ、ムルムル!」


「きゃ」


 僕が声を出した事に驚いて、ティがビックリした様だ。


「ティごめん、いきなり声を出しちゃって、ちょっと待ってね」


「は、はい」


「えっとテラどこにいるの?」


『待ってて、今ムルムルに馬車の底を食べて貰って、穴を開けているから』


「そうなんだ、危ない事はしないでね、待ってるよ」


『任せておいてね、ほらムルムル、私の騎獣としての力の見せ所よ!』


 いや、ムルムルはごく普通のスライムさんですから、あはは。


 なんだか、盗賊の弱そうな気配でゆるみかけていた緊張感が、テラの声で一気に消え失せた様な気がしないでもないけれど、少し気が楽になったかな。


「ティ、僕の旅仲間が来てくれるみたい、怪我とかしなきゃ良いんだけど」


「お仲間さん達は眠らなかったのかしら、私の旅の仲間は沢山いたのですが、ここには私しかいませんし」


 “はぁ” とため息を吐きすごく不安そう、そうだ、ティを皆のもとに、住んでいたところに帰る手助けをしよう。


「そうなんだ、まぁ僕の仲間は」


「お待たせ! 良くやったわムルムル、褒めてやるわよ♪」


 テラとムルムルについて話そうとした時、足元からにゅるりとムルムルが 出てきて、その後からテラがよじ登ってきた。


「テラ! ムルムル! どこも怪我してない?」


「きゃ、ス、スライム! と何?」


 ティは困惑しているようだが、僕はテラとムルムルを持ち上げ、手のひらに乗せた状態で前後左右から怪我してないか確かめます。


「ライ、そっちの子が戸惑っているよ、彼女なの? 人攫いにあったのに、女の子を引っかけてたの?」


「そりゃ可愛いから彼女になって欲しいなぁなんて思ったりはするけどって、何言わせるの!」


多感な年頃なんですから大目に見て下さい。


「喋ってますよ、その可愛いお人形さん」


「か、可愛い! ライ、良い子だよ! もうお嫁さんにしちゃいなよ! 見たら汚れちゃってるけど、可愛い子だよ、ムルムル! その女の子の汚れを食べちゃって!」


 うんうん、異世界ハーレム展開も憧れますが、あっ! 既にフィーアフラれ挫折してますね······。


 そんな事を考えてしまっていると、ムルムルが、みにょんみにょ~んと伸び縮みしながらティに近づきゴブリンを食べた時のように、ティを包み込んでしまった!


「えっ! 大丈夫なの!」


「大丈夫だよ~、スライムの得意技だからね~、ほら終わるよ」


 ムルムルは元の形に戻って、ティの頭の上に、みょ~んと伸びて、僕の肩に乗り移ってきた、テラをムルムルの上に乗せ、なんだか定位置になりそうな予感がしますが、今は置いておいて、ムルムルに汚れを食べられたティはそれはそれは輝くような金髪で青い眼のつるつるの白い肌物凄く可愛い子です。


 服の汚れまで綺麗になっていて、青色の服が青い瞳とマッチしてその綺麗な髪の毛を強調させ、ああ、本当に可愛すぎる!


「はわわわわわ! た、食べられちゃったのかと思いましたですわ! で、でも、ムラムラさん? 汚れを落としていただきありがとうございます」


「ムラムラじゃなくてムルムルね、でもこの馬車の中にいるなら、また汚れちゃうね、あはは」


 馬車の中は本当に汚いです、たぶん僕の背中も大変な事になっていると思います、それは、馬車の中で用を足してしまうしかないからなので、臭いも大変臭いです。


「ライ、魔石を二、三個ちょうだい、それだけの魔力があれば、私の騎獣ムルムルならこの馬車の中なんてあっという間にピカピカよ!」


 ほお~、それはスゴい、早速、今度はオークの魔石にしよう。


「はい、ムルムル」


 ムルムルの前にオークの魔石を三個持っていくと、みにょ~んと伸びて魔石を取り込み、テラはムルムルから降りて待機。


 するとムルムルがまたまたみにょ~~んと伸びて天井に引っ付くと、そこから天井を這い、壁床までピッチリと張り付き、まるで僕達を包むかの様に。


 三十秒ほどそのままでしたが、シュルシュルと縮んでいき、天井に元のサイズのムルムル。


 ぽてっ、っと僕の肩に戻ってきて、周りを見ると、汚れって何? ってほど綺麗になっていて、壁や床、天井まで木目が見え、作りたての様に綺麗になりました。


「ふぉぉ~! ムルムルスゴいよ!」


「はい、ムルムルさん素晴らしいですわ!」


「ぬふふふ、私の騎獣だからな、この程度簡単なものなのよ!」


 ぷるぷる


 テラが偉そうなのは置いておいて、ムルムルも、満更ではない感じで喜んでいるみたい、あははは。


 綺麗になった馬車の床に僕とティは向かい合わせに座り、テラとムルムルは僕の肩、ついでに僕もムルムルに綺麗にして貰いました。おっと、盗賊をどうやってやっつけるかでしたね、そして作戦会議が始まった。







 

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