体育会系の女子が不器用な恋愛をする

霜花 桔梗

第1話 挫折からの恋

 不意に思うのだ、例えば挫折したとする。そう、わたしの青春は陸上であった。高校二年の夏に故障して、一年間のリハビリが必要と言われた。


 それは三年の引退の時期に重なる。


 結局、そのまま引退して、一足早い受験勉強を始めた。風が気持ちいい季節のことである。


 そう、土曜日の学校と言えば部活である。わたしは陸上を引退したとはいえ籍は陸上部にあるので。時々顔を見せて仲間と世間話をするのであった。


 あれ?見かねない男子がいる。


 コーチにたずねると。サッカー部から移籍してきたらしい。このコーチと言うのは体育系大学を出てボランティア程度のお金で指導してくれる人だ。

少し挨拶してみるか。


「ちーす」

「こんちわ」


 何かおかしいが体育会系はこんなものだろう。


「一年の三崎です」


 あれま、年下か……。


 こんな荒くれお姉さんには興味はないか。


「先輩は良い匂いがしますね」


 まさかのナンパ?確かにここの女子は、花より部活な人々だがな。


 ううう、少し胸がキュンとした。


 ここは押し切ろう。


「この部活は仲間を大切にする。だから、ツーショット写真が欲しい」


 恋の魔法は不思議だ、わたしを積極的にする。驚く三崎にわたしは強引に自撮りをすると。


「ぷはー」


 わたしは息を止めていたらしく、ゼイゼイする。このときめく心は、本気で惚れたみたいだ。


 その後、わたしはコーチに挨拶をして、高校からの帰り道にある。


『ぷるる』


 着信?まぶだちの萌音からだ。わたしは自転車を止めると電話にでる。


『ちーす、今からカラオケに行かない?』

『わり、今月はピンチ』

『あいよ、またな』


 電話を切ると丁度、路地裏の雑貨屋が見える。着信でこの位置に止まらないと気がつかない場所だ。わたしは引き込まれる様に雑貨屋の中に入る。棚に置かれた品々はアンティークなモノばかりである。


 更にレコードが大量に置かれている。


「お嬢さん、一曲かけるかい」


 店の奥からおばあさんが出てくる。わたしは挨拶をして何かないかとレコードを探す。見つけたレコードはカーペンターズであった。胸が熱い、わたしはレコードでの音楽を聴くのは初めてです。プレーヤーにレコードを乗せると回り出す。そして、針を置き、曲が流れ始める。


♪―♪♪♪


「はっ」


 遅なると起こられ。


「おばあさん、ゴメン、わたし急いていたの、必ずまた来るから、続きはその後で」


 わたしは流れる雲を見つめて今日の奇跡を喜んだ。その夜、わたしはレコードの音が耳に残り家にレコードプレーヤーは有るのか聞くことにした。


「レコードプレーヤー?無いない、古いラジカセがあるだけだよ」


 話しによると、CDすら付いていない、ラジオとカセットのラジカセでした。


「何で、レコードプレーヤーなんかの話をするのか?」


 父親は小首を傾げている。確かに突然過ぎた。


「イヤ、さっき、雑貨屋でレコードを聞いてね」

「それで感想がエモイのか」

「お父さん止めて、今時エモイなんて使わないよ」


 わたしは携帯を取り出して大手通販サイトの密林で検索してみる。


 はー、だいたいの値段が一万二千位である。


 カーペンターズを聴く為だけに買うのもなんだ。


 でも、ドキドキが止まらない。

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