アニメの実写は大体ガッカリ

「おかしい……おかしいわ!あんなの原作レイプよ!!」

「お、おい……気持ちは分かるけど、その単語は……」

「CMではCGも美しくて、キャストも有名な俳優さんとか女優さんばかりだったから、少なからず期待していたのに!!なのに……原作の意向ガン無視のオリジナルストーリー構成に、醍醐味の戦闘シーンはほんの数十秒!こんなの……こんなのッ!原作レイプと言わないで何て言うの!?大レイプよ!強姦よ!!」

「お願いだからレイプレイプ言わないで!?!?」


 電車で二、三駅揺れた先にある大きなショッピングモール。映画館やアパレルショップ、レストランやゲームセンター等々の様々な娯楽施設が、一つの巨大な建物に複合されているその場所で、お目当ての『竜王転生!』の実写映画を見終えた二人は、心の底からの落胆と憤りを感じていた。というか、主に志穂が。


 休憩がてら入ったファミレスで、食事用のナイフを持った手をワナワナと震わせている志穂は、ひたすらに低俗な隠語を叫ぶ。焦る湊月は、暴走している志穂の頬っぺたをむにぃーと軽く引っ張りこれ以上喋らせないようにした。


「ふぁ、ふぁふぃほ(な、何よ)?」

「ほんとに落ち着いて!周りの視線が痛いから!!気持ちは分かるけどさ!?」

「だって!!だってぇ……」


 見るからに肩を落として落ち込む志穂。


──まぁ志穂がここまで荒れる気持ちも、痛い程理解できるんだけどさ……


 運ばれてきたミラノ風ドリアを食しながら、悲しそうに小エビのサラダを口にする志穂を眺めていると、湊月は自身が過去に経験した苦い記憶を思い出す。


 最近は、人気のあるアニメや原作小説・漫画を積極的に実写映像化しようとする動きがある。もちろん、それが悪いとは思わないし、現実リアルで映像化するからこその親近感が、逆に好評を得ることもあったりはする。


 ただ、元の作品が素晴らしすぎるが故に、実写化した作品の陳腐さが目立ったり、まるで原作へのリスペクトが感じられない──それこそ、志穂が言うように『原作レイプ』のような作品がありふれ始めているのも、事実だったりはするのだ。


 半年前に公開して、原作ファンから盛大に叩かれた『ミルワームの革命~転生したら異世界最強の虫になったので、人類全滅させたいと思います~』もまさに原作の意向ガン無視のゴミ作(自主規制)となっていたのは記憶に新しい。


 湊月の最も好きなアニメの一つでもある『ミル転』。当然、期待に胸を弾ませながら観に行ったわけだが、本来可愛い姿をした主人公のミルワームは、吐き気を催しそうな禍々しい寄生虫へと変わり果てていて、挙句の果てには、実写化オリジナルストーリーとかいう名目の元に、主人公のミルワームが焼き殺されてしまう始末だった。もはやあれは原作への冒涜であり、湊月を含めた原作ファンをバカにして喧嘩を売っているとしか思えない。


 そんなクソ・オブザ・クソな経験をしているからこそ、確かに出来は良くなかったがつまらないとも言い難い『竜王転生!』の実写化に対して、湊月はそれほど酷い抵抗は感じなかったのだが、莫大な期待と羨望を抱いていた分、志穂にはどうしてもこたえてしまったようだ。


「うぅ……悲しいから、帰ったらもう一回竜王転生の円盤見返すもん……」

「また見返すの!?志穂この前一気見したって言ってなかった……?」

「あの作品は何回でも見れるわ!!ていうか、見れば見るほど新しい発見があるんだから!本当、さすが京アニさんって感じなの!」

「そういえば、京アニ作品で言うと、今期のアニメにも一つあったけどあれは見てるの?」

「もちろんっ!湊月は見てないの?」

「見たいんだけどさ……最近は推しの配信を追っかけるのに忙しくて……」

「推しって、あのVTuberの?」

「そうそう。天使悪魔あまつかでびるちゃんと春夏冬夏しゅんしゅうとうかちゃんね」

「ふ、ふーん。そうなんだ。そんなに好きなの?」

「そりゃもう、大好きなんてもんじゃないよ!?この二人を含めた、ESEの配信者ライバーさん達には人生を変えられたと言っても過言じゃないんだから!」


 手に持っていたスプーンを置いて、狂熱的に語る湊月。


 だがその途中で、自分が話している相手は、つい最近勇気を出して告白してくれた女の子である事をふと思い出し、考えすぎなのは自覚しながらも一度押し黙って、恐る恐るといった動作で志穂の表情を確認した。


 すると、予想していたどの表情とも違う、顔を赤らめて恥ずかしそうに俯く可愛らしい幼馴染の姿が。


 くるりんっ♪と巻いた触角をくるくると愛らしくいじりながら、足元を軽くぱたぱたとしている志穂は、


「そんなに好きなんだ……ふーん。んふふ……って、何笑ってるのよ私!」

「……志穂?」

「な、何っ!?私の顔、なんか変!?」

「え、いや、そんな事はないけどさ……大丈夫?」

「も、もちろん大丈夫よ!!……こほん。ちなみに湊月は、どの配信者ライバーを一番良く見るの?」

「志穂もVTuber興味あるの!?」

「え、えぇ……まぁ、少し?」

「そうだなぁ。最近一番見てるのは、春秋冬夏ちゃんかなぁ……」

「なッ!!」

「え?」

「へ、へぇ……そんなに可愛いんだ……その子」

「もう凄いよ!特にゲームの腕がプロ顔負けでさ──」

「あー!もう料理食べ終わっちゃった!そろそろお店でない!?」

「え、あ、うん。良いけど、それより冬夏ちゃんのお勧めの動画を……」

「……っ!湊月のばか!!もう行くよっ!ほら!!」

「あぁ……うん……?」


 そう言って、語気強めに立ち上がった志穂に催促されて、追随する湊月。


 推しのVTuberの布教をしようとしたら急に志穂が立ち上がってしまった為、慌てて荷物を手に取り後を追いかけるが、頭の中は無数のハテナマークで埋め尽くされていた。


──何で怒ってるんだろう……?まぁいっか!


 考えても仕方のない事は考えないようにする、とても呑気な湊月であった。

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