幼馴染と先輩と。
時は十七時頃。三者三様、緊張の放課後。
今日の華蓬文理学園の生徒達を一様にザワつかせた三人衆──白羽志穂と天宮夏音、それに小野寺湊月は、早朝二人に
今まで日常的に会話をしていたはずの二人なのに、状況が違うだけでこうも見え方や景色が変わるのかと、そんな不思議な感覚に駆られながら改めて、湊月は目の前にぎこちなく座っている志穂と夏音を見た。
昨日まで清楚であった幼馴染──白羽志穂。
色素が薄い桃色の髪は、几帳面に整えられたハーフアップで纏められており、絶対に不慣れであろうメイクは、持ち前の手先の器用さで拙いながらも丁寧に化粧されている。
いつ開けたのかも分からない微かに銀色に光るピアス、胸は……あまり無いが、控えめに開かれた胸元、緩い校則に則り上げられた短いスカート。そんな足元から覗かせる、新雪のように白い柔肌が露出された形の綺麗な太ももは、最高に扇情心を煽ってくる。
どこもかしこも、昨日までの自分に張られていたレッテルを大胆に剥がした、天宮夏音との属性の反転、もとい完全なるギャル化を果たしていた。
無化粧の、
それに対して、志穂の横に座っている元ギャルであった先輩──天宮夏音。
あれだけ
Yシャツはきっちり第一ボタンまで閉じられ、スカートの丈も長いのにも関わらず、押さえつけられた事によって逆に奇跡の親和性が生まれている、圧迫されギュウギュウとなっているそれら二つの豊かに実った双丘と、ムチっとした足で履いている黒タイツによって、純粋なエロさというよりも背徳的な──何だか、見てはいけないものを見ているような、そんな高ぶりを刺激してくる様相を呈していた。
ただ、変化があるのは二人の見た目だけで、性格や口調は以前と変わらずな為、若干の違和感は未だに拭えない。
志穂と夏音の交互に視線を向けて、時たま目が合ってはお互いにすぐ逸らすという、不思議な緊張感に包まれている一室。
そんな空気間に耐えきれなくなった様子の夏音は、スゥーっと一度深呼吸をして口を開いた。
「えっとー、それで……みっつん。朝の話の続きなんだけど……」
「う、うん……」
「湊月は……その……、もう答えは決まったの?」
「ま、まぁ……」
この部屋の室温は、割かし適温であるはずなのだが、三人の顔には熱がこもり脳内は茹っている。
続かない会話、再び静まり返るその場。
「あーーもうっ!!待って!!みっつんの答え、聞きたいけど聞きたくない!!何なのこれ!?全ッ然ウチらしくない!!」
何かが事切れたかのように、自身の頭を抱えながら突然声を張る夏音。
「ビックリするので急に大きな声を出さないでください!……でも、遺憾ですが天宮先輩の気持ち少し分かります。私もちょっと怖いな」
「お、初めて気が合ったじゃんシホっち。何?ウチの事好きなの?」
「全然意味が分かりませんから。あとシホっちって呼ぶな」
志穂からの辛辣とも取れる反応に、ケラケラと笑う夏音。
仲が良いのか悪いのかがイマイチ把握できない二人の関係性。
──てか、色々ありすぎて流れてたけど、そもそもこの二人が面識合ったのも初めて知ったしな。
少なくとも湊月は、今日の六時に二人同時に告白しに来るまで、志穂と夏音に個人的な交流があるのは知らなかった。いや、湊月どころか、校内の事情であれば相当の情報通である翔馬でさえも、この二人の関係性を知らなかったというのだから、本当にどういう繋がりなのか測れないというものだ。
湊月は、いつかタイミングがあればその話についても聞こうと思いつつ、昼休みに翔馬から貰った『はぐらかさない』というアドバイスを思い出し、意を決して今から綴る言葉を脳内から探し出す。
「……俺さ、知ってると思うけど、今まで誰かから明確な好意を向けられた事もないし、友達以上の関係性の進展って言うのを全く知らない。だから、志穂と夏音先輩から告白を受けた今でも、正直嬉しさ以上に衝撃というか……不安の方が
「不安?」
「そう。不安。それぞれと共通した趣味があって、自分達の大好きなもので語れる時間が大好きだし、こんな俺にも優しく話しかけてくれる二人が大好きなんだ。これは本当に……嘘偽りない俺の気持ち」
「うんうん」
「……うん」
ぎこちなく、それでいて一言一言丁寧に言葉を噛み締める湊月。そんな少年の言葉に、優しく頷き相槌を返す二人。
「だからこそ、今を壊したくないし手放したくない。これがきっかけで関係性が漂白されるのは本当に嫌だし、それが一番怖い。……それが、何よりも怖い」
ほんの少し震えた声音で、精一杯自分の気持ちを捻りだす。
そして、そのまま「だけど」と続ける湊月。
「真剣に思いを伝えてくれた二人に対して、俺が真剣に向き合わないのはそれが一番失礼だし、最低だと思うから。だから───」
早朝、寝ぼけていた湊月に二人が向けていたあの真剣な眼差し同様、しっかりと志穂と夏音の表情を見据えた湊月。そして、
「ごめんなさい!!」
言葉の勢いのまま頭を下げる。
「ごめんなさいって言うのは……どっちに対して?」
「どっちも!俺は……二人とは付き合えない!」
「そう……なんだ」
「そっかぁ……」
告白の返事を受けた志穂は、下唇を軽く噛み表情を強張らせて、夏音は宙を仰ぎながら肩を落とす。
「……ちなみに、理由とか聞いても?」
「二人とも大好きだし本当に大切だけど、それは付き合うって事の好きとは少し違う気がするし、やっぱり俺には人を好きになるていうのがイマイチ良く分からない。それに、えっと、だから……その……」
明らかに重く暗い雰囲気をどうにかしようと、思いのたけを真摯に伝えようとするが、並べたい言葉は空気を振動させる前に飛散してしまい、形として残る事は無い。
すると、そんなアタフタした湊月の姿を見ていた志穂と夏音は、どちらからともなく頬を緩ませて、穏やかな笑みを浮かべた。
「ふふっ、テンパってる湊月可愛い」
「あはは!あー……何かもう、みっつん見てたら気が抜けてきちゃったよ」
「いやだって!こういうの本当に初めてだから必死で!!」
「うん、分かってる。とっても伝わってきた。だから嬉しいのよ?湊月が、こんなにも真剣に考えていてくれたんだなって分かって」
「そうそう!それに、どっちも付き合えないって事は、まだ負けてないって事じゃんね?」
「それは……どういう……?」
「これから精一杯みっつんにアピールして、いつかウチの事を好きになってもらうってこと!!」
「私だって、死ぬ気で湊月を惚れさせてみせるから!!絶対に好きになってもらうもん!」
最悪関係性が真っ白い白紙になってしまう事すら覚悟していた湊月は、思わぬ方向転換に驚きながらも、心の中で猛省していた。
──そうだ。この二人は、そういう人達だった。
芯が強くてしっかりとした自分がある、内見的アイデンティティーは絶対にブレない、そんな幼馴染と先輩なのだ。
そのまま志穂と夏音は、「だから……」とその先の言の葉を綴る。
「改めて、大好きだよ。湊月」
「これからは、たっくさんドキドキしてもらうんだから!!」
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2023年度のカクコンは、この作品で勝負します!
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貴方の☆がこの作品を羽ばたかせます。
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