真の陽キャは優しいようで2
「つまり……告白はされたけど、付き合ってはいないと?」
「う、うん……」
「…………」
「…………」
「殺したい。切実に、殺したい」
「丁重にやめてほしい」
午前授業が終わった後、学生達に訪れるほんのひと時の平穏──迫りくる早弁の誘惑を払いのけ、襲い掛かってくる
購買でメロンパンを二つ買った湊月と、焼きそばを二パック買った翔馬は、普段はほとんど人が寄り付かない、屋上へと続く階段を昇った先にある踊り場に腰を下ろして、昼食を取りながら今朝湊月の部屋で起こった二人からの突然の告白についての話をしていた。
「朝も言ったけど、そもそも湊月が天宮先輩と知り合いだったことに、まず驚きが隠せないんだけど?」
「同じ中学校で、その頃から関りはあったんだよ。まぁ……校内では話す事はほとんど無かったけど」
「……校内では?」
「あー……あの人、あんなギャルギャルしい感じだけど、俺と同じようにサブカルっていうか、ゲームが大好きなんだよ。だから、たまに俺の部屋でやってたり───」
「湊月の部屋で!?……お前も、やっぱり男なんだな。見た目はめっちゃ草食動物……いや、小動物みたいなのに……」
「……どういう事?」
湊月の純粋な疑問に「良い良い。高校生だもんな!」と、微妙に噛み合わない回答をする翔馬。
ただ、本題はそこではない為、自身を小動物と表現された事に遺憾を覚えながらも話を続けた。
「突然のことすぎて俺自身の脳内も処理しきれてないんだけど……俺はどうしたら良いんだろう……」
「どうしたら良いんだろうって、そりゃお前が好きな方と付き合えば良いんじゃないの?」
何を言ってるんだ?といったような表情で、さも当然の事のように答える翔馬。それに対して、ウーンと喉を唸らせる湊月は首を傾げて、
「好きな方……か。それで言えば、二人とも好きなんだけど……」
「お前それ言ってる事、炭水化物でお腹を膨らませたいけど甘いものも食べたいからとかいう理由で、白飯にチョコレートかける奴と言ってる事同じだからな?めちゃくちゃウザくない?」
「それはめっちゃウザいけど、絶対それとは意味合い違うから。何ていうんだろ、もちろん好きなんだけど、付き合うっていうのとは少し違うのかなぁ……みたいな」
「あー、友達としてのってやつね。生意気な奴だな死ね……って言いたいとこだけど、確かに、今まで仲良い友達だと思ってた人から急に告白されると、結構悩んだりするよな」
「こんな魅力のミの字もない俺が、誰かから告白されるなんて今生で二度と無い事ってのは理解してるし、死ぬほど嬉しいんだけど……」
「いやー……うん。何となく分かるかも。今までの関係性が心地良かったからこそ、自分の返事でその関係性壊したくないよな」
「そう……そんな感じ。誰かを好きになった経験が無いから、最悪の選択肢を取って二人との関係性が悪くなるのとか本当に嫌だし……」
「なるほどなぁ……美人な二人に告られてヨッシャー!みたいな、単純な話じゃないんだな」
意外にも本気な湊月からの相談に、
しばらくの間無言で、購入したメロンパンと焼きそばを食しながら眼前に見える白いだけの壁を見据える二人。
そして、湊月よりも一足先に食べ終わった翔馬は、購買でついでに買った緑茶で喉を潤して、「まぁでも」と優しい声音で切り出した。
「お前が一番望んでる結果を、そのまま伝えれば良いんじゃない?多少都合が良くてもさ。湊月が二人の事を大切に思ってる気持ちって、案外しっかりと伝わると思うし」
そのまま、「ただ」と前置きを置いて続ける。
「絶対にやっちゃダメなのは、二人からの気持ちをはぐらかして、どっちつかずな対応をする事だな。これはマジで誰も幸せにならん」
「な、なるほど……経験者は語るってやつか……」
「まっ、そんなとこだな。大切なものは失ってから分かるっていう、あの安っぽい文言。あれ意外とマジだったわ」
そう言いながら、自嘲気味な笑みを浮かべる翔馬。
そんな横顔をチラッと覗き見た湊月は、地面に置いていた菓子パンを封入していたプラスチックの袋をクシャッとしながら掴み、ゆっくりと立ち上がると、
「やっぱり、翔馬に相談して正解だった。今思ってることをそのまま伝えてみるわ」
「おう。そりゃ良かったよ」
「そのー……ありがとな」
「どいたまどいたま。あんま大したことしてないけどっ!」
気恥ずかしさから、小さな声で感謝の意を述べる湊月。それを見て、翔馬は楽しげに笑いながら自身も腰を上げる。
湊月は、改めてこの多田翔馬という人間と友人になれて良かったなと、心の底からそう思った。
自分自身が中学時代から元々、あまり積極的でアクティブな性格ではない──
出会ったばかりの懐かしい記憶を逡巡させていた湊月は、ふと当時抱いてはいたが口に出さなかった事を思い出し、今の話の流れから尋ねてみることにした。
「そういえばさ、何で一年の時に教室の隅っこでラノベ読んでた俺に話しかけようと思ったの?」
「クラスメートに話しかけるのって、そんなおかしい事?」
「いや……でも、翔馬の周りにいた人達が、たまに俺の事を根暗な変な奴って言ってるの聞こえてたからさ」
「喋ってすら無いのにそんなん分らんくね?まぁ確かに、話したいなと思ってた明確な理由はあるけどさ」
「明確な理由あったんだ」
「あぁ。入学式の日さ、湊月大遅刻かましたじゃん?」
「……思い出させないでくれあの忌々しい記憶を」
湊月が入学早々、自身のイメージを大幅に下げ、『変な奴』のレッテルを張られることとなったあの事件。
一応、その日は登校時間に間に合う時刻には家を出ていたのだが、ある訳あって大遅刻をかましてしまった。わざわざ人に言う程の理由では無かった為、湊月自身は特にそれについて触れてこなかったのだが───
「俺さ、あの日たまたまお前と乗ってる電車が同じだったんだよ」
「……待って。てことは、あの現場も見てたってこと?」
「もちろん。あの日遅刻した原因、ホームで倒れたおばあさんを最後まで介抱してたからだろ?」
「…………まぁ」
「チラッと横目で流し見るだけの人、スマホでその様子を撮ってる人。周囲にはたくさんの人がいたけど、助けようとする人は一人もいなかった。ただ、右から左へと流れていくばかり。例外なく、当然俺もね」
「いや、実際遅れるか遅れないかのギリギリだったし、仕方ないんじゃ……」
「でもお前は、すぐに駆けつけて大声で『駅員さんを呼んでください!』って周りに呼び掛けてたじゃん」
「それは、その……前日見たアニメに影響されただけで。普段は、あんな行動起こせないというか……」
「だとしても、あの時にお前は行動を起こした。傍観者の一人だった俺とは違う。しかも、その後遅刻して教室に来た時、わざわざそれを明言しないで謝ってたじゃん。何か……その姿が、すっげーかっこよかったんだよな」
「言わなかったのは、信じてもらえると思ってなかっただけなんだけども」
自分で振った話題ながら、予想外の角度からのべた褒めによって、心の中をくすぐられるような思いをする湊月。
実はその日、湊月に感化された翔馬は急いで駅員を探し状況を説明した結果、自分も若干の遅刻をしたことは秘密のまま、照れて耳まで赤くなってる湊月の様子にくすっと笑いながら、
「そんなかっこいい奴、否応でも話したくなるじゃん。だから話しかけた。どう?聞きたかった答えは聞けた?」
わざとらしくニヤッと笑みを浮かべ、そっぽを向いている湊月の表情を拝もうと位置を変える翔馬と、顔を見られたくなくて翔馬に背を向けようと奮闘する湊月。
お昼時のそんな平和な一枚を映しながら、校内に響くチャイムが鳴り、二人は自分達の教室へと戻っていく。
翔馬と話してからの湊月には、志穂と夏音への一切の迷いは無く、面と向かって今の自分の気持ちを話そうという、強い意志すら宿っていたのだった。
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