間男

連喜

第1話 間男

 ”間男”という響きから感じるのは、同性から投げられる軽蔑だ。もともとは、夫婦の間に入ってくる男性という意味らしいが、侵入者、あるいは邪魔者と言うニュアンスを含んでいるに違いない。


 俺の間男人生は長い。もう、四半世紀は間男をやっていると自負している。プロと言ってもいいくらいだと思う。今まで結婚したことはないし、間男に相応しく不妊症だ。無精子症ではないので、子どもを持てる可能性もあるわけだから、ラッキーなんじゃないだろうか。無精子症の人は男性の100人に1人くらい。不妊症は20人に1人だということだから、俺みたいな体質の人は意外と多い。これを読んでいて他人事だと思っても、実は自分が・・・ということもあるかもしれない。


 お陰で、今まで相手に子どもができてもめたことはない。「あなたの子じゃ・・・?」と言われても、自分は不妊症だと言って簡単に逃げられる。何て便利な体に生まれついたんだろうと思っていたが、今年でもう50になってしまった。当然、女にもてなくなってくる。俺は最近になってようやく結婚を考えるようになった。


 しかし、自分の欠陥について相手に告げるべきか悩んでしまう。不妊症であることを隠して結婚したら、相手の女性にいつまでも子どもができなくて、2人で不妊外来に行かなくてはいけなくなるかもしれない。俺はどうすべきなんだろうか。


***


 色々な原因があって、子どもが欲しくてもできない夫婦がいる。あえて選択して作らないという夫婦もいるが、2015年の調査によると、結婚持続期間が15年~19年で出生した子どもが0の夫婦は6.2%だそうだ。やはり子どもがいる夫婦が大多数ということだ。夫婦だけで住んでいると、「子どもはまだ?」、「夫婦だけだと寂しいよ」と言われる。


 不妊治療をしている夫婦も多い。実際に不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は18.2%。14人に1人に1人は不妊治療で誕生している。ということは、30人のクラスで2名いることになる。


 俺の会社にも不妊治療をしていた人がいたけど、その人は両立できなくてやめてしまった。それに、不妊治療が辛くて、結果として離婚してしまうこともある。俺はどうしても子どもが欲しいというのはない。最初は不妊症を隠して婚活していたが、次第に罪悪感を感じるようになってしまった。

 しかし、出会って間もなく告白すると、ほぼ振られてしまう結果になった。女性が不妊だということを理由で振られるのはかわいそうだと同情されるのに、俺は女たちから当然のように切り捨てられてしまった。女は俺に何を見ているのか。稼ぐ人や、すごい美人ならともかく、普通の人が俺みたいな高収入の男と結婚するのは稀なのに、常に女は選ばれる立場だと勘違いしている。


 結局、女は俺をATM、精子提供者、育メン候補としか思っていない。出会って早めに告白していたせいか、一緒に不妊治療をしようとしてくれる人はいなかった。


 俺も20代の頃は自分が不妊症だと気が付かなった。30くらいで婚約した時、相手からブライダルチェックを受けてくれと言われ、その時の検査で精子の動きが悪いことが発覚してしまったんだ。俺は、その頃、もうすぐ結婚すると会社や友達に話していたのに、結局、破談になってしまった。理由は性格の不一致と言っておいたけど、あちらは親しい友達には俺の体のせいで・・・と言ったかもしれない。

 女はすぐに別の男と結婚した。相手は高収入だけど、不細工で冴えない感じの男だった。俺はそんな男に負けてしまったんだ。そいつはブライダルチェックを受けたんだろうか?受けてない気がする。俺より条件のいい年上の男だったから、無条件で飛びついたんじゃないだろうか。


 俺がこの話をすると、「その女性はあなたのことを本当に愛していなかったのよ」と、言われる。慰めではなく本当だと思う。女性というのは、愛がなくても結婚できるということを知り、俺は二重に打ちのめされた。


***


 彼女のことを1日も忘れられないまま1年の月日が過ぎていた。

 思い続ければ相手に通じるのか、元カノが結婚して、1年くらい経って、彼女から連絡をもらった。

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