虫取り小僧と世話焼き猫

織部

プロローグ

 夕陽が綺麗にゃー

 ミーの家の近く、大きな鉄塔を中心に数軒並ぶ新旧入り混じった住宅が囲むようにその原っぱはあるにゃ

 夏の始まりを告げる蝉の声、草の匂い、水気を含んだ熱を放つ土、人は夏だから、風物詩というのかもしれないけど、正直うざいにゃ。

 ミーのことを考えたら、もっと過ごしやすくして欲しいものにゃ。

 そんな原っぱの真ん中にキーは、立っていた。

 夕陽に照らされ、虫網を刀のように垂直に構えるその姿は、昔、じいちゃんと見た時代劇の佐々木小次郎を彷彿とさせるにゃ。

 ミーは、それを固唾を飲んで見守る美しきヒロインといったところかにゃ?

 キーは、買ったばかりのスニーカーが汚れるのも気にせず、底を拗らせ、網を振り下ろしたにゃ。

「捕まえたー!」

 網の中には、薄い青色の羽のシジミチョウが網に絡まっていた。

 キーは、鼻歌でアニメソングをハミングし、とーちゃんに習った通りにシジミチョウを網から出し、買ったばかりの透明なプラスチックのカゴに入れた。なんでもこの籠だと小さな虫でも逃げないらしいけど、ミーにはようわからんにゃ。 

「見てミー!シジミチョウだよ」

 キーは、嬉しそうにミーに見せてくる。

 はいはい、良かったにゃキーちゃん。

 ミーは、しっかりと答えたつもりだが、キーには、ミーの声は聞こえない。鳴き声として短く表現されただけ。笑ってるつもりだけど、表情も出てない。自慢のかぎ尻尾を振ることで表現するしかない。

 それでもキーは、大満足したように笑い、虫かごを足元に置いて再び網を構えた。

 キーの何とも愛らしい姿に思わず目を細める。

 蝉の鳴き声が激しくなる。

 キーの目線では見えないようだが、とんがった顔のバッタが飛び跳ねる。確かたまちゃんの大好物だったっけかにゃ?虫を食べようとは思わないけど、飛びつきたくなる気持ちは分かる。身体がムズムズするにゃ。

 キーは、静かに網を構えたまま動かない。

 夕陽が鉄塔の裏に沈んでいく。

 今日は、大丈夫そうかにゃ?

 安堵し、前足を舐めようとしたその時。

 草むらからぼんやりと光るワタゲが姿を現した。

 ミーは、思わず短く鳴いた。

 ワタゲは、本物の綿毛のように波を打ちながら揺れ、キーの周りを漂う。キーは、じっと動かず、熟練の侍のように目で追う。

 次の瞬間、キーは、素早く網を振り下ろし、ワタゲを捕まえた。

 まさに電光石火とはこのことにゃ

「いやったー!」

 キーは、大喜びし、網の中に手突っ込み、ワタゲを取り出す。

 ワタゲは、小さく震え、淡い光を放つ。

 不気味な光景。でも、キーの目はさらに輝く。

「見てミー!ヘラクレスだよ!それともアトラスかな?」

 キーは、手足をバタつかせ、身体で喜びを表現する。

 可愛いにゃ。とても可愛いけど、、、

 ミーは、思わず嘆息する。

 自己紹介が遅れたにゃ。

 私はミー

 キーの姉であり、愛らしく、そして美しい、十二歳の茶トラの女の子にゃ。

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