終章 8 再会

 この日、私は自室で新しい錬金術の研究を行っていた。


今考えている錬金術は空間移動。あのとき、魔術師のヨミが使った『ポータル』という魔法陣はすごかった。一瞬で同じ魔法陣を描いた場所に移動できたのだから。


「あの魔法は本当に便利だったわ……」


私が今新しく作ろうとしている空間移動の錬金術は少し違う。それは自分が今まで訪れた場所を連想するだけで、そこへ瞬時に移動できるという錬金術だ。


この世界には、移動手段は馬か船……もしくは魔法の力を使う以外に手段はない。

電車や車のような便利な交通機関が無いので移動するにも時間がかかる。


「一瞬で移動できる錬金術があれば、領地視察も楽になるし……それに……」


私の脳裏に幼い弟、ヨリックの姿が浮かぶ。

弟は今頃どうしているのだろう? あの子はまだ、たったの10歳。両親も兄弟も亡くし、1人残された姉の私までこの国に来てしまった。

さぞかし寂しい思いをしているに違いない。


『エデル』へ来るまでは、アルベルトとカチュアが恋仲になった段階で離婚を申し出て国に帰ろうと思っていた。

けれど、私は約束してしまった。ずっとアルベルトの側にいると。


『レノスト』国は遠い。

ヨリックの為にも、私はこの錬金術を完成させたい。……自分の寿命が尽きるまで、この世界で生きていくと決めたのだから。


「この術式でもまだ駄目ね……図書館にでも行ってみようかしら。何かヒントに鳴りそうな資料があるかもしれないし」


その時。


『クラウディア様! 陛下がお戻りになられました!』


扉越しに声が聞こえてきたので急いで立ち上り、扉へ向かった。


「アルベルト様がお戻りになられたのね?」


扉を開けると、報せに来ていたのはハインリヒだった。


「はい、そうです。先程城に到着されました。広間でクラウディア様をお待ちです。どうしてもクラウディア様に会わせたい方を連れていらしたそうです」


「私に会わせたい人……?」


思わず首をひねる。一体誰のことだろう。


「ええ、私もどの様な人物なのかは伺っておりませんが……どうやら少年らしいです」


「少年……?」


まさか……少年って……? 何故か胸騒ぎがする。


「すぐに行くわ!」


「はい、お供致します」


私は急ぎ足でハインリヒと共にホールへ向かった。




「アルベルト様!」


ホールに到着すると、そこには大勢の騎士たちと共にマントを羽織ったアルベルトの姿があった。


「クラウディア! 今帰ったぞ」


アルベルトが私に声をかけてくる。けれど、今の私には彼の姿は目に入らない。

代わりに……。


「お姉様!!」


アルベルトのすぐ側に、ヨリックの姿があった。


「ヨリック!!」


「お姉様!」


ヨリックが私に駆け寄ってきたので、両手を広げた。


「お姉様……! 会いたかった……!」


ヨリックは私にしがみつくと、泣きじゃくった。


「私も……ずっと会いたかったわ……」


小さなヨリックを抱きしめ、私達は皆の見守る中で姉弟の再会を果たした――

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