終章 3

 神殿の出口が見えてくると、縛り上げられたまま床の上に座らされている神官や兵士たちの姿が見えてきた。

神官たちの周囲には睨みを聞かせた騎士たちが集まっていた。彼らの中にユダやハインリヒの姿もある。


「アルベルト様、あれは……?」


「あの神官たちは全員宰相の命令に従っていた者たちばかりだ。どうやら制圧したようだな」


アルベルトがニヤリと笑う。


すると、アルベルトの姿を認めた騎士が駆け寄ってきた。


「陛下! お待ちしておりました!」


「ご苦労だった。捕らえた者たちはこれで全員か?」


アルベルトは神官たちの前に進み出ると、彼らを見下ろす。神官や兵士たちは皆、怯えた様子でアルベルトを見つめていた。


「はい、何人かは取り逃がしましたが恐らくすぐに捕まるでしょう。聖地の要所要所に騎士たちを配置し、城にも町にも騎士たちを配備しておりますので」


「そうか……全員、必ず見つけ出して捕らえろ。この者たちを監獄塔に閉じ込めておけ」


『はい!!』


騎士たちが返事をすると、1人の神官が怯えた様子で声をあげた。


「ま、待って下さい! 我々をどうするつもりですか!?」


「お前たちは宰相と共にクーデターを図った。それだけで重罪に匹敵する!」


アルベルトが険しい表情で言い放った。その言葉を聞いた彼らはたちまち震え上がる。

それは当然のことだろう。この国での重罪は死罪……つまり、処刑されるということなのだから。

回帰前の私がまさにそうだった。


「そ、そんな!」

「死刑だけは!」

「お許しください!」


彼らの必死の訴えに耳を貸さず、アルベルトは騎士たちに命じた。


「全員連れて行け! そして誰一人逃さないように見張りを厳重にしろ! 残りの者たちは二手に分かれて城と町へ行け。怪我人を発見したら保護をして手当をするのだ!」


アルベルトの言葉に騎士たちは返事をすると、捕らえた神官と兵士たちを無理やり連行していった。

その後にリーシャたちが続き、私とアルベルトだけがその場に残された。


「クラウディア……」


2人だけになると、アルベルトが声をかけてきた。


「はい、アルベルト様」


「お前は、クーデターを起こした者たちの処罰をどうすれば良いと思う?」


「私に判断を委ねるのですか?」


「ああ。本来は二度と同じ過ちを起こさせない為に処刑にするところだが……お前に幻滅されたくないからな?」


じっと私を見つめてくる。


「私がアルベルト様に幻滅することなどありません。ですが……処刑はいささかやり過ぎかもしれませんね?」


「そうか?」


「はい。クーデターを起こした者たちはカチュアによって、洗脳されていた可能性が高いですし……何より私はアルベルト様には命を奪うような方にはなって欲しくはありません」


回帰前、アルベルトに処刑されたときのことを思い出す。


「では、お前ならどうする?」


「そうですね。私だったら命は取らずに彼らの身分と財産を剥奪して、もう二度と抵抗する気を起こさせなくします。誰だって死にたくはないでしょう? 死罪を免れれば、アルベルト様に恩義を感じるのでは無いでしょうか? そして奪った財産はこの国の発展の為に使うのです。貧しい人々を無くすために。……どうでしょうか?」


暫くの間、アルベルトは私をじっと見つめていたが……やがて笑みを浮かべた。


「そうだな。それが良いかもしれないな」


「え……? 本当ですか?」


まさか私の提案を受け入れるとは思わなかった。


「ああ、当然だ。何しろお前はこの国の『聖なる巫女』なのだから」


「なら……もう一つ、お願いしても良いですか?」


「何だ? 言ってみろ」


「はい。怪我をした人たちがいるなら治療させて下さい」


そう、私には秘薬があるのだから。


「なら俺も手伝おう。いや、手伝わせてくれ」


「そんな! いけません。私はまだ人々にあまり顔を知られてはいませんが、アルベルト様自らが手伝うなんて……皆恐縮してしまいます」


「そうか? なら俺が国王でなければいいんだな?」


アルベルトが自分の指輪に触れた。すると、その姿は変わっていき……スヴェンの姿になった。


「行こうぜ? 姫さん。怪我人の治療に行くんだろう?」


スヴェンの姿をしたアルベルトが私の手を握りしめてくる。


「はい!」


頷くと、私も彼の手を握りかえした――






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る