第2章 242 神々との別れ

 そうだ、回帰前の私は死ぬ直前までアルベルトのことを愛していたのだ。


敗戦国の人質妻として冷たくされたけれども、幼い頃に一緒に過ごした彼のことが私はずっと好きだったのだ。


それが例えカチュアを愛し、私を断頭台に送った相手でも……。


私は石化してしまったアルベルトを見つめた。

ひょっとすると、彼も私を愛してくれていたのだろうか? だから私が死んだ後、必死で生き返らせる方法を探し……やり直す為に自ら命を絶った。



「あ……」


その時、気づいた。

よく見ると、徐々にアルベルトの足元から石化が解けてきているのだ。


<どうやら呪いが解けてきたようだな。恐らく他の者達も同じだろう>


ユニコーンが周囲を見渡す。


「クラウディア様」


シモンが声をかけてきた。


「はい、シモン様」


「今まで、地上に残ってあなたを見守ってきましたが……もう大丈夫でしょう。あなたは聖女として目覚め、国を滅ぼしかけた愚かな者たちはこの国の守り神によって罰が下った。もう誰もあなたを脅かす存在はいないでしょう」


その言葉に嫌な予感がよぎる。


「もしかして……シモン様はここを去るのですか?」


「ええ、そうです。もう私の役目は終わりです。もともと私は神の祝福を受けたあなたを見守るためにとどまっていたのですから」


そんな……! 今、ここで彼にいなくなられてしまったら私は……!


「待って下さい! 地上を去る前に私を元いた世界に帰して下さい!」


「一体何を言い出すのですか?」


シモンの顔に困惑の色が浮かぶ。


「エデルに平和が戻ったのですよね? だとしたら、もう私はここにいなくても大丈夫でしょう? お願いです! 元々私がいた世界に……日本に帰して下さい!」


この世界も私にとっては大事。けれどそれ以上に大切なのは、「橋本恵」として生きていた世界だ。

あの世界には自分の命よりも大切な2人の子供たちがいる。

かけがえのない存在……葵と倫。


「クラウディア様がいた元の世界と言うのは私の力が及ばない場所です。どのような世界かは分かりませんが、こことは全く異なるのですよね? 異世界は私の力の範疇ではありません」


「それではもう私は二度とあの世界には戻れないということですか!?」


すると、ユニコーンが話しかけてきた。


<それは、まだ分からないぞ? 記憶には残っていないだろうが、300年前にお前は聖女セシリアとして確実にこの世界で生きていたのだから。思いが強ければ、いつかその願いが叶うかもしれぬ>


「思いが強ければ……ですか?」


「ええ。彼の言う通りかもしれませんね。現にクラウディア様はその強い意志で運命を変えたのですから」


「シモン様……」


確かに彼らの言う通りなのかもしれない。回帰した私は自分の力で運命を変えた。

だとすれば、いずれは葵と倫に再会できる日も来るかもしれない。


「そうですね……きっとまたいつか会える日が来ると信じることにします」


元の世界に戻れる方法を諦めずに探し続ければ……いつかは見つけられるかもしれない。


<さて、そろそろ我は元いた場所に戻るとしよう。もう間もなく石化した者たちが元に戻る頃だからな>


「クラウディア様。私も役目が終わったので、戻ることにします。大勢の人々の前で天に戻るわけにはまいりませんので」


「はい。……どうかお二人共、お元気で」


するとユニコーンとシモンの身体が眩しい光に包まれた。


「!」


思わず目を閉じると、頭の中に声が響き渡る。


<また、いつか会おう。聖女セシリア>


<さようなら、クラウディア様>


さようなら……ユニコーン。そしてシモン様。


やがて眩しい光が収まり、目を開けると……既に彼らの姿は消えていた――







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