第2章 217 その人物は
青年の傷口に【エリクサー】を注いだ途端、彼の身体が眩しく光り輝いた。
するとあれほど酷かった傷口が一瞬で消え、服や身体に血の跡だけが残っていた。
「う……」
青年がまぶたを動かし、呻いた。
「大丈夫ですか!? しっかりして下さい!」
声をかけると、青年がゆっくり目を開けた。
「クラウディア……?」
「え?」
何故この人は私の名前を知っているのだろう? 不思議に思った次の瞬間――
「良かった! 無事だったのだな!?」
そして起き上がると、突然私を強く抱きしめてきた。
「え? あ、あの!」
彼の行動に戸惑っているのを本人は気づく様子もなく、語りかけてくる。
「お前なら必ずうまく逃げ出せると思っていた……本当に……信じて良かった。それに俺の傷を治してくれたのもお前だろう?」
一体、彼は何者なのだろう? 全く見知らぬ相手に抱きしめられているのに、不思議といやな気持にはならない。
「……どうした? 何故黙っているんだ? クラウディア」
青年は私から体を離し、両肩に手を置くと首を傾げて顔を覗き込んできた。彼の瞳に私の戸惑った顔が写っている。
「あ、あの……あなたはどなたですか? どうして私のことを知っているのですか?」
何処かで会ったことがある気もするが、それが何処か思い出せない。
「え……? クラウディア、お前何言って……あ!」
その時、突然何かに気づいたかのように青年が私から離れて口元を手で覆った。
「し、しまった……」
なにか小さく呟く彼。
「あの? どうしましたか? それより何故私のことを知っているのか教えてください」
「それは……と、とにかくここを抜け出てから説明する! 行こう!」
青年は立ち上がり、私の腕を掴んで立ち上がらせた。
「いつ、この抜け道が連中にバレてしまうか分からない。急ごう!」
「え、ええ」
青年に手を引かれたまま、私達は水路を急ぎ足で進んだ――
**
「ここまで来れば大丈夫だろう……」
水路を抜けるとそこは城門の外を抜けた林の中だった。
「まさか、こんな場所に出るなんて……」
辺りをキョロキョロ見渡していると、青年が声を掛けてきた。
「この林を抜けると、王都に続く道に出ることができる。日が暮れる前に急ごう」
「はい、それであの……」
青年は未だに私の右手を握りしめている。いつになったら離してくれるのだろう?
「どうかしたか?」
「いいえ、何でもありません」
私は首を傾げる青年の手を軽く振り解いた。すると青年はちらりと私を見て口元に笑みを浮かべた。
「それじゃ、行くか。会わせたい人たちもいるしな」
「会わせたい人たち……?」
一体誰のことだろう?
「行こう、クラウディア」
私の前をスタスタと歩き始める青年の後を追いながら声を掛けた。
「あの、一緒に行くのは構いませんが……あなたは一体誰なのですか? どうして私の名前を知っているのですか?」
「その様子だと、暗示がバッチリ効いているってことだよな……」
「え? 暗示……?」
何のことだろう。その時、目の前が突然開けて賑やかな町並みが現れた。
「町だわ……」
「ここまで来れば、安心だろう」
そして青年は私の方を向いた。
「……こんな形で再会するとは思わなかったけどな。姫さん」
「え……?」
姫さん……?
何処か懐かしい呼び方に感じる。
「俺はスヴェンだよ」
「スヴェン……?」
スヴェン……スヴェン……一気に私の頭のモヤが晴れていく。
「スヴェン…・・・! そうだわ、スヴェン! 思い出したわ!!」
私はスヴェンの袖を掴んだ。
「ああ、そうだ。思い出してくれたか? だけど……これは仮の姿なんだ」
「仮の姿……?」
スヴェンは頷くと、自分の指に触れた。その指には指輪がはめられている。
すると、スヴェンの身体がモヤに包まれ……徐々に晴れていく。
「え……?」
目の前に現れた人物を見て私は言葉を失った――
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