第2章 170 不安な気持ち
「アルベルト様……?」
恐る恐る声を掛けながら、私は隠し部屋の中へ足を踏み入れた。けれど、室内にアルベルトの姿はない。
「いないわ……ここにいると思ったのに、一体何処へ行ったのかしら……」
辺りをゆっくり見渡していると、ある異変を感じた。
「え……?衣装箱の蓋が……?」
部屋の片隅に置かれた衣装箱の蓋が開いているのが目に入った。あの中には黄金の果実が隠されている。それに鍵は私しか持っていないはずなのに……
「ま、まさか……」
イヤな予感が脳裏をよぎり、慌てて衣装箱に駆け寄って中を覗き込んだ。
「そ、そんな……!」
衣装箱の中は空だったのだ――
****
――カチャ……
執務室の扉を開けると、廊下でユダとダンテが待機していた。二人は私を見ると驚きの表情を浮かべた。
「ど、どうしたのですか!? クラウディア様! 顔色が真っ青ではありませんか!」
ユダは私のすぐそばまで近づくと、心配そうに声を掛けてきた。
「中で何かあったのですか? まさか陛下の身に……!」
ダンテの言葉に首を振った。
「いいえ、陛下は中にはいらっしゃらなかったわ……とりあえず執務室に入ってもらえるかしら?」
廊下で話せるような内容ではない。この城には宰相の息のかかった者達が大勢いるのだから。
ユダとダンテは頷くと執務室の中に入ってきた。私はすかさず内鍵をかけると状況を説明した。
「じ、実は……黄金の果実が消えていたの……」
「「え!?」」
ユダ とダンテが同時に声をあげる。
「き、消えていたとはいったいどういうことなのです?」
「文字通り消えていたのよ……アルベルト様と一緒に隠し部屋の中に鍵を掛けて入れておいたのに無くなっていたの……鍵だって私しか持っていなかったのに」
「そんな……」
ダンテが青ざめた表情のまま呟いている。
「クラウディア様、もしやこれは宰相の仕業ではありませんか?」
もはやユダは宰相への不信感を隠そうともしない。
「……そうかもしれないわ」
「いえ、そうに決まっています。大体、タイミングが良すぎるとは思いませんか? 我々が『裏通り』を訪れて、頼まれごとをされた翌日に宰相から勝負が明日に決まったと言ってくるなど。おまけに黄金の果実が消えているとなるともはや犯人は宰相しか考えられません!」
ユダは興奮した様子で訴えてくる。
「確かに、リシュリー様は怪しむべき方ではありますが……黄金の果実を隠した箱には鍵がかかっていたのですよね? しかもその鍵はクラウディア様がお持ちになっている……」
「ええ、でも今は黄金の果実の行方を探している余裕は無いわ。勝負は明日で、必ず宰相からは黄金の果実を持ってくるように言われているのよ。もし持ってこれなければ……私は負けてしまうことになるわ」
私には錬金術で作り出した秘薬があるけれども、明日はそれを使うことが出来ない。もし、このまま明日までに黄金の果実が見つからなければ……
「私は……処罰されてしまうかもしれない……」
思わず、自分の不安な気持ちが口をついて出てしまった――
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