第2章 168 ユダへの報告

 朝食後――


アルベルトの執務室を尋ねてみようと扉を開けると、目の前に驚きの表情を浮かべたユダが立っていた。


「あ、ユダ。おはよう」


「おはようございます、クラウディア様。今日は俺が護衛騎士としておともします」


ユダはニコニコ笑みを浮かべながら挨拶してきた。‥‥…本当に出会ったばかりのころは始終不愛想な表情を浮かべていただけに、未だにユダの笑い顔には慣れない。

思わず、じっと見つめるとユダが顔を赤く染めて視線を逸らせながら尋ねてきた。


「と、ところで何処かへ出かけるつもりだったのですか?」


「いえ、出かけるという程のものでは無いのだけど……アルベルト様の執務室に行こうと思っていたの」


「陛下の執務室ですね? お供いたします」


当然のように頷くユダ。


「でも……執務室に行くだけだから。毎回何処かへ行く度に護衛について貰うのは悪いわ」


「クラウディア様、このような言い方をして気分を害されてしまうかもしれませんが……この城にはクラウディア様を良く思わない宰相、それにあの方の息がかかった者達が大勢います。なので城内ではなるべくおひとりで行動されないで下さい」


ユダは声のトーンを落とし、眉を潜めた。


「……そうね。仕方ないわね……」


やはり宰相が私を敵視する限り、この城の中では穏やかに暮らしていくことは難しいかもしれない。


「クラウディア様……不自由をお掛けして申し訳ございません」


ユダが申し訳なさそうに私に謝る。


「それでは、ユダ。悪いけど、アルベルト様の執務室迄ついてきてもらえるかしら?」


「ええ、勿論です」



そして、私はユダを伴ってアルベルトの執務室へ向かった。



**


「そうだわ、ユダ。伝えておきたいことがあるの」


隣りを歩くユダに話しかけた。


「はい、何でしょう」


「今朝、宰相が部屋に来たのよ。私とカチュアさんの勝負が明日に決まったのですって」


「何ですって?」


私の言葉にたちまちユダの眉間にシワがよる。


「明日? いきなりですか? あまりにも突然の話ではありませんか」


その反応はエバと同じだ。


「やはり、あなたもそう思う? 出来れば前もって教えて貰いたかったけど、カチュアさんに知らせたのも今日だから条件は同じだと言われたわ」


「そんなの嘘に決まってるではありませんか」


ユダは吐き捨てるように言う。


「そうよね。私も端から信じていないもの。宰相に言われたわ。明日十時に城門の前に来て下さいと。黄金の果実を忘れないようにともね」


「……そうですか。それにしてもタイミングが良すぎですね。我々が『裏通り』に炊き出しに出向いたその矢先に勝負だとは」


「ええ、そうなのよ。実は宰相に言われたの。自分の置かれている立場をもう少し理解するべきだと……もう、私達の行動が宰相に筒抜けなのかもしれないわ」


「と言うことは……宰相は何か仕掛けてくるつもりなのでしょうか? クラウディア様……大丈夫ですか?」


心配そうな顔をユダが向けて来る。


「……多分、大丈夫よ。だって私には頼もしい仲間たちがいるから」


「ええ、お任せください」



ユダは笑みを浮かべて私を見た――

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