第2章 166 朝の来訪者
翌朝――
今朝はエバが朝の支度の手伝いに部屋を訪れていた。
「クラウディア様、陛下と昨日の件についてお話できましたか?」
新しいベッドシーツを交換しながらエバが尋ねてきた。
「ええ、出来たわ。すぐに路地裏の人たちの今後の対策を考えると言ってくれたの。それだけではなく、宰相たちに反対して連行されていった人たちの行方も探してくれるそうよ」
髪をとかしながら質問に答えた。
「そうですか、それは良かったです。クラウディア様のお話にすぐ動いてくださるなんて、さすがは陛下ですね」
「そうね。相談して良かったわ……」
回帰前の私だったら、話を伝えることすら出来なかっただろう。
そのとき――
コンコン
部屋の扉がノックされた。
「あら? こんな朝早くからどなたでしょうか? ちょっと見てきますね」
エバは扉へと向かった。
再び鏡を向いて、髪をとかしていると扉の方でエバの驚いた声が聞こえた。
「え……リ、リシュリー様⁉ な、何故こちらに……!」
宰相が⁉ エバの言葉に驚き、思わず立ち上がった。
「お待ち下さい! まだクラウディア様は……!」
エバの制止する言葉も聞かずに、宰相はズカズカと部屋の中に入ってきた。そして立ち上がっている私と視線が合う。
「おはようございます、クラウディア様。朝早くから申し訳ございません。……少々お話よろしいですかな? 少し緊急を要するお話でして……」
そしてニヤリと笑う。それは有無を言わさない口調だった。
「……ええ、いいですよ。お話、承ります。どうぞ、こちらの席にお掛け下さい」
部屋の中央に置かれたソファを薦めた。
「では失礼致します」
宰相が席に座ったので、私も向かい側に座るとエバに声を掛けた。
「エバ」
「はい、クラウディア様」
「早速だけど、二人分のお茶を用意してきてもらえるかしら?」
「分かりました。すぐにお持ちいたします」
返事をするとエバは、チラリと宰相を見た。その表情は不満気だったが、宰相は背を向けているから気付いていない。
「それで、宰相。今朝はどのような御要件でいらしたのでしょうか?」
まさか、昨日『裏通り』に行ったことがバレてしまったのだろうか?
「ええ、次の勝負が明日に決定いたしました。そのことを知らせに来たのですよ」
「明日……ですか?」
思わず眉をしかめてしまった。まさか、カチュアとの二回目の勝負が明日だとは……
「急な話で申し訳ないです。ですが、カチュア殿にも先程知らせたので2人とも条件は同じですからな」
「そうですか」
そのような話を私が信じるとでも思っているのだろうか?
「明日、十時に城門の前にお越し下さい。お待ちしております。あ、そうそう。聖地で採取してきた黄金の果実をお忘れなく。では、私はこれで」
宰相は立ち上がった。
「宰相、もうお帰りになるのですか? 今お茶を頼んでいるところですが」
「いえ、そのお気持ちだけで結構です。それでは失礼いたします」
「いいえ、何もおもてなしできずに申し訳ございません」
私も立ち上がると宰相に頭を下げた。
「ところでクラウディア様」
「はい、何でしょう」
「これは私からの忠告ですが……御自分の置かれている立場をもう少し理解されたほうが良いと思いますよ」
「!」
その言葉にドキリとした。
「それではまた明日、お会いしましょう」
宰相は意味深に笑うと、今度こそ部屋を出ていった――
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