第2章 165 彼らの居場所

 その日の夜――


私は自分から願い出て、アルベルトと夕食を共にしていた。


「クラウディアの方から夕食を誘ってくれるとは嬉しいな」


ワインを片手に、アルベルトが機嫌良さそうに笑みを浮かべる。


「……そう仰って頂けると嬉しいです。ありがとうございます」


何処まで彼が本心で言っているのかは分からないが、今夜は頼みごとがあるので素直にアルベルトに接しよう。


「本日、『裏通り』の人々のところへ行ったのだろう? 皆喜んでくれたか?」


「そのことなのですが……アルベルト様にお願いがあります」


「一体何の願いだ? 言ってみろ」


「はい。アルベルト様は御存知でしたか? 宰相が路地裏に住む人々を追い払おうとしていることを」


「知らないな。第一、リシュリー自らが国庫を使用して彼らの生活を改善させると提案してきたのだから。もしや、彼らの為に新しい住まいを与える為に……いや、奴に限ってそのようなことは無いな」


ため息をつくアルベルト。


「はい、そうです。宰相はあの場所を再開発したいようです。彼らに新しい住居を提供するどころか、後一カ月以内に追い払おうとしています。しかもそれだけではありません。立ち退きに反対した人々を連行していったそうです」


「何だと⁉ 連行していっただと⁉」


アルベルトの顔色が変わる。


「はい、そうです。どこへ連れていかれたかは不明ですが…‥」


「リシュリーめ……勝手な事ばかりしおって……」


忌々し気にアルベルトが呟く。けれど、今回の件は宰相だけのせいではない。


「アルベルト様。どうやら再開発の提案をしてきたのはカチュアさんのようです。あの場所には悪い気がたまっているので再開発をしたほうが良いと言ってきそうです」


「そうなのか? 今現在あの場所に住む人々のために再開発をするというのなら理解できるが、これから先の住む場所も提供せずに追い払うなど……自らを聖なる巫女と言っているくせに、あの女は少しも聖女らしくないじゃないか……」


アルベルトは苛々した様子でワイングラスを傾ける。


「そこで、お願いがあります。路地裏に住む人々は衣食住が事足りていませんでした。皆さんを助けてあげたいのです。力を貸して頂けないでしょうか? それに宰相に連れていかれてしまった人々も探し出したいです」


「分かった。すぐに何とかしよう」


即答するアルベルトに驚いた。


「え?」


「何だ? その表情は? 嬉しくは無いのか?」


怪訝そうな表情を浮かべるアルベルト。


「い、いえ。嬉しいですが……まさか、そんなにすぐに了承して頂けるとは思わなかったので」


「そんなのは当然だろう? 緊急を要する話だからな。それに、捕らえられた者達だが……もしかすると城の牢屋に閉じ込められているのかもしれない」


「まさか、あの監獄にですか?」


背筋が寒くなる思いがした。


「どうだろう? 城にはまだ地下に牢屋があるからな。すぐに人を使って探させよう。リシュリーの耳には入れないほうがいいな。何処で裏通りの人々を捕らえた話を知ったのか、調べられるかもしれない」


じっとアルベルトが私を見つめてくる。


「そうですね」


もし、調べられれば私が路地裏に行ったことがすぐにバレてしまうだろう。


「安心しろ、必ず地下牢の者達を助け出してやる。それに裏通りの人々の件もな」


そしてアルベルトは笑みを浮かべた――


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