第2章 163 長老の相談
私こそ聖女……同じような台詞をエデルに到着した直後にユダが言っていたのを思い出す。だけど私はそのような者ではない。
「何言ってるの。『聖なる巫女』なら、もうすでにいるでしょう?」
すると、マヌエラが眉をしかめた。
「カチュアさんのことを言っているのですよね? ですが私はどうにも彼女のことが信用できません。宰相の後ろ盾があるからと言って、多くの護衛騎士やメイド達を側仕えさせているのですから。それに噂で聞いた話によると、かなり贅沢三昧な生活をしているようです。連日仕立屋や、宝石職人たちが彼女の元を訪ねているそうです」
「え……? その話、本当なの?」
城の内情を殆ど知らない私には寝耳に水の話だった。回帰前では、私は自分に支給されていた予算を湯水のように使っていた。全ては自分を顧みないアルベルトに振り向いてもらうため。愚かなことに、あの当時の私は美しく着飾れば彼の気持ちは自分へ向いてくれるだろうと考えていたのだ。
結局、それは全て無駄に終わり……逆に公金横領罪の罪迄課せられてしまったのだが。
けれど今にして思えば、もしかするとカチュアの散財も全て私の仕業にさせられていたのだろうか?
私の影に隠れて、彼女自身も散財していた……?
「どうかしましたか? クラウディア様。顔色が優れないようですが……もしかすると私、余計なことを口にしてしまったでしょうか?」
マヌエラが申し訳なさそうに尋ねてきた。
「いいえ、何でもないわ。大丈夫よ。ただ少し驚いただけだから。カチュアさんがそんなことをしていたなんて……」
するとそのとき――
「少し、よろしいですかな?」
先程の長老が声を掛けて来た。傍らには先程の中年男性も立っている。
「ええ。大丈夫ですが」
「貴女と話したいことがあるのだが……ここは騒がしいので、ワシの家で話をしたいのだが」
「ええ……」
チラリとマヌエラを見た。
「なら、私もお話に同席せて下さい」
すると、すぐ傍にいたリーシャも話に加わって来た。
「私も同席します。それにハインリヒさんとユダさんも御一緒させて下さい」
確かにリーシャの言う通り、ユダとハインリヒも一緒の方が良いかもしれない。
「まぁ、我々は別に構わないが……」
「それではすぐに2人を呼んできます!」
リーシャは立ち上がると、すぐ近くに待機していたユダとハインリヒの元へと駆けて行った――
****
私達は今、長老の家に招かれていた。長老と言えども、住まいはやはり貧しくて粗末な物だった。
「すまんな。この通り満足なもてなしも出来なくて」
私達の前に置かれたお茶を見ながら長老はため息をつく。
「いえ、どうぞお気になさらずに」
私が返事をすると、ハインリヒが長老に尋ねた。
「それで、クラウディア様に話というのはどのような事なのです?」
「クラウディア様……か。やはり、こちらの方はただのお人では無かったということですな? 初めはその身なりで分からなかったものの、途中から何やら高貴な雰囲気を持たれていることに気付きました。一体貴女は何者なのでしょうか?」
長老はじっと私を見つめてくる。
「それは……」
どうしよう、私の身元をこの『路地裏』の人々が知ったら……どのように感じるだろうか?
もしかすると、敵意の込められた視線を向けられるかもしれない。
「クラウディア様……」
ユダが心配そうな顔で私を見る。すると老人が再び口を開いた。
「実は、こちらに貴女を招いたのは‥‥…貴女なら我々の問題を解決できるのではないかと思って声を掛けさせて頂いたのです」
「私に……?」
「はい、そうです。我々はこの国の宰相を名乗る人物から立ち退きを命じられているのです」
長老の口から、思いがけない言葉が飛び出した――
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