第2章 162 皆と一緒に

「だ、だが……」


まだ老人は何処か渋っていた。そこへモリーが進み出てきた。


「あの、失礼ですが貴女のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」


名前……私は敵国だった王女。いわば、ここにいる人々の仇といってもよい存在だ。けれど、『エデル』に嫁いできてから私は殆ど人々の前に出てきたことはない。それに自分の名前が特に珍しいとも思えなかった。


「はい、私の名前はクラウディアと申します」


私が名乗ったことに、仲間たちがギョッとした顔でこちらを見る。けれど思った通り、ここに住む人々は私の名前を聞いても無反応だった。


「クラウディアさんですか? 私もお料理作りに協力させて頂けますか?」


「ええ、是非お願い致します」


それは嬉しい申し出だった。恐らく仲間内で料理が出来る女性は私だけだろう。

リーシャも貴族出身だったし、マヌエラもエバも当然貴族出身だ。

すると、次々と女性たちが名乗りを上げてきた。


「私も手伝わせて下さい」

「早く子どもたちに食べさせてあげたいわ」

「皆で準備をすれば早く終わるもの」


「し、しかし……」


未だ私達を疑う素振りの老人に、1人の中年男性が声を掛けてきた。


「まぁまぁ、長老。良いではありませんか。だいたい、この人達を見てご覧なさい。我々に退去命令を出した者達とは明らかに身なりが違う。しかもとても威張っていたじゃないですか」


「むぅ……確かにそうだな……。仕方ない、勝手にやってくれ。ワシは関与しないからな」


長老と呼ばれた老人は踵を返すと立ち去ってしまった。……今の会話は一体どういう意味だったのだろう? 

けれど、今は食事を用意するのが優先だ。


「それでは皆さん、早速始めましょう」


私の言葉に集まった女性たちと仲間たちがうなずいた――




****


 その後、私達は皆で協力しあって料理を作った。屋外で料理をするため、かまどを作る準備や火起こしなどはユダ達が行った。その間私達は食材の準備をした。慣れない手つきのリーシャたちに手伝いをしていた女性たちは丁寧に教え、和気あいあいとした雰囲気に包まれた。



そして準備を始めて2時間後――


3つの大鍋にはスープ料理と肉料理、そしてチーズをふんだんに使った熱々の料理が完成した。


その料理を見た人々は歓声を上げて喜び、思い思いに料理を食べて楽しげに会話をしていた。


そんな様子を見つめながら、私達もベンチに座って食事をしていると隣に座るマヌエラが声を掛けてきた。


「クラウディア様は、やはりすごいお方ですね」


「そうかしら?」


「ええ、宰相と、派閥の人々は傍からクラウディア様を『エデル』に迎えるのを反対しておりました。陛下にはもっとふさわしい女性がいずれ現れるはずなので、考え直すべきだと。けれど陛下が強引に押し通したのです。自分の妻になるのはクラウディア様だけだと言い切ったのです」


「……そう」


その話は既に私の耳に入っていた。


「城内の人々も大半が反対しておりましたが……今ならはっきり分かります。陛下が何故クラウディア様を自分の妻に望んだのか」


「マヌエラ……」


「こんなにも日の当たらない場所に住む人々にまで救いの手を差し伸べられるなんて、本当に素晴らしい方です。私はクラウディア様こそ、聖女様なのではないかと思います」


そしてマヌエラは笑みを浮かべて私を見た――

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