第2章 145 専属護衛騎士宣言

「お待ちしておりました」


 深々と頭を下げるユダは、いつの間に着替えたのか騎士の正装である黒い制服を着用していた。


「何故ここにいる?私は別にお前を呼んでなどいないが?」


 どこか棘のある口調でアルベルトがユダに話しかける。


「はい、確かに仰せの通りですが私は自分の意思でここにおりました。本日付で正式にクラウディア様の専属護衛騎士になりましたので」


「確かにそうは言ったが……それではクラウディアを待っていたのか?」


「その通りです。これからお部屋に戻られるのですよね?私がクラウディア様をお部屋まで護衛致します」


 私は2人の会話を黙って聞いていた。何故か口を出しては余計に拗れてしまいそうな雰囲気が流れていたからである。


「それには及ばぬ。私がクラウディアを部屋まで連れて行くのでお前は下がっていいぞ」


「いいえ、クラウディア様を護衛するのが私の任務ですから。どうぞご安心なさって下さい」


「お前を……信頼しろというのか?」


 アルベルトの声色が変わってきた。


「陛下は私を信頼してクラウディア様の専属護衛騎士に任命されたのではありませんか?」


 ユダの目付きがますます悪くなってくる。これは……流石にあまり良い状況とは言えなくなってきた。


「あ、あの……」


 声を掛ける、二人が同時に私の方を振り向いた。


「そうだ、クラウディア。お前が決めてくれ」

「そうですね。クラウディア様にお任せ致します」


「え!?わ、私に⁉」


 すると再び二人は同時に頷く。


 困った……何故私に決めさせるのだろうか?けれど……。


「分かりました……それでは……」




****



「クラウディア様、俺を選んで下さってどうもありがとうございます」


 ユダはニコニコしながら私の隣に並んで廊下を歩いている。


「選ぶと言うには少し大袈裟かもしれないけれど……ほら、陛下は執務でお忙しい方だし、まさかそのような方に部屋まで送って頂くのは気が引けるわ」


 けれど、ユダを指名したときにアルベルトがどこか恨めしそうな目で私を見ていたのが気にはなる。


「そうです。その為に俺という専属護衛騎士がいるのですから」


「それにしても、やはりユダは強いわね。それにその騎士の姿、とてもよく似合っているわよ」


「!そ、そうですか?クラウディア様にそのように言って頂けるなんて……こ、光栄です」


 ユダの顔が赤くなっている。私が褒めたので照れているのだろうか?


「ところでユダ、あの森で死んでしまった騎士達は一体どうなったのかしら?」


「はい。仲間達と共に森から運び出してきたところ、別の騎士達が待ち受けていました。そして遺体を引き渡すように言われたので、その通りに致しました。恐らく彼らの遺体は秘密裏に処理すると思われます」


「そう……。きっとその騎士たちも宰相の回し者なのでしょうね」


「はい、そうですね。ですが……本当に無事で良かったです。クラウディア様に剣が振り下ろされたあの光景を思い出すだけで……身体が今でも震えてしまいます……」


 そしてユダが私を見た。


「ありがとう、貴方はこの城で数少ない私の味方だわ。護衛騎士になってもらえて嬉しいわ」


「クラウディア様……」


「でも、あのとき弓矢を放った人は誰なのかしら。どこかで見たことがあるような気もするのだけど……」


「そうなのですか?俺は姿を見ていないので分かりませんが……何故聖地にいたのでしょうね?」


「それが謎だわ。でも……どこかでまた会えたら、そのときはお礼を言わないとね」


 何となく、またどこかで彼に会える……。


 私にはそんな気がしてならなかった――


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