第2章 139 検証方法
「それは疑いたくもなるでしょう?黄金の果実と言えば、伝説の果実と呼ばれる程に希少価値の高いものなのですぞ?しかも最後に実ったのは300年前、聖女セシリアが降臨したときに実った果実なのです。それを聖女でも何者でもないクラウディア様がそのように大量に黄金の果実を取ってくるなど、まずありえないでしょう?」
宰相は大袈裟な身振り手振りで熱弁を振るう。
「ほう……なら、どうすると言うのだ?」
アルベルトは腕組みをしながら宰相を睨みつけた。
「はい、それはその果実が本物かどうか検証するのです」
「検証?どのような方法で行うのだ?」
「ええ、まずは双方の果実が意図的に金色に染められたものではないかどうか、確認すればよいのです。念の為に、どのような塗料でも、色を落とすことが出来る溶液を今日の為に用意しておいたのです」
「溶液だと?」
アルベルトの眉が上がる。
「はい、さようでこざいます。これに着ければ、意図的に染めた物は全て塗料が剥がれ落ちていき、元の姿に戻ります。双方が取ってきた果実をこの溶液に入れて試してみるのです」
宰相が私を見て不敵に笑う。
「宰相、この私がその溶液を本物だと認めると思っているのか?」
アルベルトの質問に、不機嫌になるかと思われた宰相。だが、彼は笑みを浮かべて頷いた。
「ええ、そうおっしゃると思いました。では試してみましょうか?」
そして宰相は側に控えていた騎士に声を掛けた。
「例の物を出せ」
「はっ!」
命じられた騎士は背中に背負っていたリュックを祭壇に下ろすと、荷物を出し始めた。
ワイン瓶ほどの大きさの瓶に、ガラスの器、そして白い布に、小瓶に入った黒い液体。それら祭壇に並べていく。
「用意できました、リシュリー様」
「ご苦労、下がって良いぞ」
宰相は道具を並べた騎士を下がらせると、私達の方を振り向いた。
「ではまず、立証してみましょう」
真っ白な大理石の祭壇の上に白い布地を広げた宰相は、上から小瓶に入った黒い液体を突然降り注いた。
「!」
まさか祭壇の上で黒い液体を掛けるとは思わず、驚きのあまり私は息を呑んだ。
アルベルトもじっとその様子を見つめている。
「どうですかな?このように黒く染まりましたね?」
中央部分が黒く染まった白い布を宰相は広げて私達に見せた。
「ああ、確かに染まったな」
頷くアルベルト。
「それだけではありません。祭壇にも黒い液体が染み付いてしまいました」
祭壇の上にも黒い染みが広がっている。ひょっとすると、あの液体は油性の黒い塗料なのだろうか?
「では早速この溶液をふりかけてみるとしましょう」
宰相は得意げに瓶の蓋を開けると、黒い塗料が着いた布にふりかけた。すると、あっという間に黒い塗料がまるで溶けるように流れていく。
「どうです?この溶液の凄さを?祭壇の塗料も消えているのがお分かりですかな?」
「なるほど。確かにその溶液は素晴らしい。なら、早速検証を始めるとしよう」
そしてアルベルトは私とカチュアを交互に見た――。
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