第2章 119 気乗りしない訪問者

「クラウディア様、気乗りしませんがお茶の用意を致しましょうか?」


 食後、リーシャが声を掛けて来た。


「ええ、そうね。用意して貰おうかしら?」


 気乗りしないというリーシャの言葉に苦笑しながら返事をした。


「本当にどこまで図々しい方なのでしょう。クラウディア様はもうすぐこの国の王妃になられるお方なのに、押しかけて来るのですから」


「カチュアさんのことをそこまで言う人は中々いないわね。何しろあの人はこの国の聖女と呼ばれているのですから」


「あの方の何処が聖女なのですか?本当に聖なる力があるかどうかも分からないではありませんか」


 リーシャは余程不満なのか、お茶の用意をしながら文句を言い続けている。


「それを証明する為に、明日私と勝負をするのでしょう?」


 本当に何故こんなことになってしまったのだろう。私はこの国では目立たず、息を潜めて暮らしていこうと思っていたのに……。守るべきものがあったが為に、否が応でも宰相達の前に立つことになってしまうとは。


「でも……心配です」


 リーシャがポツリと呟いた。


「どうしたの?リーシャ」


 するとリーシャは顔を上げて私を見た。


「クラウディア様……本当に明日の勝負、勝てるのでしょうか?もし、万一にでも負けるようなことがあれば……ただでは済まされないのではないでしょう?」


「リーシャ……」


 リーシャの身体は小刻みに震えている。


「大丈夫よ、私を信じて。勝てる見込みがなければ、初めから勝負を挑まないわ」


 もっともこの勝負……半分は宰相に乗せられてしまったようなものだけれども。


 その時――。



コンコン


 扉をノックする音が聞こえた。


「どうやら……いらっしゃったようですね」


 リーシャは露骨に嫌そうなため息をつくと、扉を開けに向かった。


「どちらさまでしょうか?」


 扉越しにリーシャが声を掛ける。


『私です、カチュアです。約束通り11時に伺いました』


 別に約束をしたわけではないけれども、私はリーシャに声を掛けた。


「お通しして、リーシャ」


「……はい、クラウディア様」


不満そうな表情を浮かべながらリーシャは扉を開けた。




「こんにちは、クラウディア様。お話したくて伺いました」


「ええ。構いませんよ。どうぞ」


立ち上がって出迎えると、カチュアは部屋の中へと入って来た。


「どうぞ、こちらに」


丸テーブルを挟んだ向かい側の席を勧めるとカチュアは会釈して腰かけた。


「……お茶をどうぞ」

「どうもありがとうございます」


リーシャがお茶を運んでくると、カチュアは笑みを浮かべてお礼を述べて来た。


「それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」


「ええ。明日の勝負のことですが……ところで、クラウディア様」


 カチャは何故かチラリと、側に立つリーシャを見た。


「何かしら?」


「2人きりで大事な話をしたいので、彼女に席を外して貰いたいのですけど」


 その言葉にリーシャはピクリと肩を動かす。


「分かりました……リーシャ。仕事に戻っていいわよ」


「はい、クラウディア様……」


 リーシャはお辞儀をすると、部屋を去って行った。


 その顔には不安げな表情が浮かんでいた――。

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