第2章 116 スヴェンの告白
「スヴェン……?スヴェンなの?!」
慌ててベッドから声を掛けると、スヴェンは人差し指を口に当てた。
「姫さん、そんな大きな声出すなよ。誰か来たらどうするんだ?この国の次期王妃になる姫さんの部屋に男がいるのがバレたらマズイだろう?大体近くには護衛騎士もいるじゃないか」
「あ……そうだったわね」
声を抑えるとサイドテーブルに掛けておいたガウンを羽織り、室内履きを履いた。ベッドから降りるとスヴェンが近づき、私に声を掛けてくる。
「姫さん、何だか『エデル』に着いてからやつれちまったんじゃないか?旅をしていた頃の方がイキイキして見えたぞ?」
スヴェンが心配そうな顔で私を見つめてきた。
「そうね。確かにあの旅も色々なことがあって大変だったけれど、悪くない旅だったわ。ここへ来てからは色々気苦労が多いけど……。ちょっと待って。そんなことよりも私は貴方に聞きたいことが山程あるのよ」
「ああ、分かってるって」
頷くスヴェンの顔はどこか寂しげに見えた。
「一体どういうことなの?ここに着いてすぐに貴方は姿が消えてしまったのよ?いいえ、ただ消えただけでは無いわ。私以外の皆の記憶から……存在自体が消えてしまったのよ?リーシャが貴方を覚えていないのは仕方ないけれども……」
唇を噛むと、続けた。
「ユダだって、トマスやザカリー……一緒に旅をした人たちの全員の記憶から貴方は消えてしまったのよ?一体これはどういうことなの?」
スヴェンは暫くの間黙っていたけれども、やがて口を開いた。
「ごめん、姫さん。俺……本当は『アムル』の領民じゃないんだ」
「え?」
その言葉に自分の顔が青ざめるのを感じた。
「俺……実は、姫さんを護衛する為にあの村で待っていたんだよ。村人たちに暗示を掛けてな」
「え……?」
「ついでに姫さんがこの国の王妃になるのに相応しい人物か見極める目的もあったんだよ」
「スヴェン……あ、貴方はひょっとして魔法が使えたの……?」
信じられない思いで私はスヴェンの話を聞いていた。
「いや、暗示に掛けるには別に魔法の力なんか必要ないさ。普通に魔法のアイテムがあるしな」
スヴェンは肩をすくめた。
「そ、そんな……」
信じられない……いや、信じたくなかった。信頼していたのに、あの旅の中で私は1番スヴェンを信頼していたのに。
私に見せてくれたあの姿は全て嘘だったと言うのだろうか?
「この国に着いた段階で俺の役目は終わった。だから時間が経てば、徐々に俺のことを忘れるようにあの場にいた全員に暗示を掛けておいたんだよ。だから少ししたら俺の記憶が皆から消え去ったのさ」
「わ、私を……騙していたの……?」
自分の声が震えているのが分かった。
私の言葉にスヴェンは悲しげな笑みを浮かべる。
「別に姫さんを騙していたわけじゃないんだが……でも、姫さんからしてみれば騙されていたことになるかもしれないよな……?我ながら酷いことをしたと思っているよ」
「誰からの命令なの?貴方に私を監視するように命じたのは」
尋ねる必要など無いのは分かりきっていたけれども、スヴェンに問いかけた。
「悪い、言えない」
即答するスヴェン。
「国王陛下の命令なの?」
「ごめん……それも言えないんだ」
スヴェンは申し訳なさげに俯く。
「そうよね……答えられるはず無いわよね?でも何故今頃になってそんなことを私に言うの?それにどうして私だけ貴方に関する記憶が残っているの?」
「そう、そこなんだよ。俺は確かに姫さんにもユダ達と同じ暗示をかけたのに……何故か姫さんは俺の暗示にかからなかったんだ。それだけ、俺を信用していたってことかな?」
「ええ、そうよ。1番信頼していたわ。それなのに……」
何故だろう?今迄多くの辛い経験をしてきたはずなのに……何故スヴェンの裏切りがこんなにもショックに感じるのだろう。
気付けば、私の目から一筋の涙が流れていた。
この世界に回帰して……初めての涙だった――。
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