第2章 80 抱擁と歓喜の声に包まれて
「クラウディア……お前がこの溜池に水を満たしたのか……?」
アルベルトは信じられないと言わんばかりの目で私を見る。
「は、はい。そうです」
頷く私に、その場にいる全員が目を見開いて私を見ている。アルベルトのみならず、水を独占していた伯爵に護衛の騎士たちまで……。
「信じられない……一体どうやって……い、いや。そんな話はどうだっていい!でかしたぞ、クラウディア!流石は未来の王妃だ!」
アルベルトは満面の笑みを浮かべると、私を強く抱きしめてきた。
「!!」
その行動に驚いて固まる私。
何しろ回帰前、私とアルベルトと手を触れ合うことすら無かったのだから。それが今、彼は私を胸に埋め込まんばかりに強く抱きしめてくる。
そしてアルベルトの抱擁が嫌では無い自分に戸惑いを感じていた。何故なら、不思議と懐かしく……心穏やかな気持ちがこみあげてきたからだ。
これは……一体、どういうことなのだろう……?
「でかしたぞ、クラウディア。本当にお前をここに連れてきて良かった」
アルベルトは抱擁を解くと、私の両肩に手を置いて優しげな瞳で見つめてきた。
「アルベルト様……」
「そんなバカな……み、水が……」
伯爵は驚きとも落胆とも取れる様子で、溜池を見つめていた。
そしてその場に居合わせた騎士たちも呆然とした様子で水が完全に満たされた溜池と私を交互に見ている。
「よし!すぐに町の広場へ戻ろう!水路に水が満たされているか確認に行くのだ!」
もはやアルベルトは伯爵を無視して、騎士たちに呼びかけた。
「「「「はい!!」」」」
彼らは声を揃えて返事をした――。
****
町の中心部の広場に戻ると、大騒ぎになっていた。
立派な街だけれども、人の姿が殆ど見えなかったので寂れているのかと思っていただけに驚いた。
誰もが水路の水に喚起している。噴水からは勢いよく水が噴き出しており、中には手ですくってその水を飲んでいる人達までいたのだ。
「これは凄い騒ぎだな……」
アルベルトが隣に立つ私に声を掛ける。
「はい、そうですね」
すると、先程アルベルトに訴えてきた青年が私達の姿に気付いて駆け寄ってきた。
「陛下!」
「ああ、お前だな?」
「はい、そうです!ご覧下さい。先ほど突然噴水から水が湧き出し、水路に水が流れ込んできたのですよ?」
青年はとても嬉しそうだった。
その言葉に人々が一斉に反応した。
「何?!国王陛下だって?!」
「陛下が我等を助けてくださったのですね?!」
「ありがとうございます!!」
町の人々が駆け寄り、私達はあっというまに取り囲まれた。
「無礼者!それ以上陛下に近付くな!」
「もっと下がるのだ!!」
護衛騎士たちが人々を諌めた時、アルベルトがよく響き渡る声を発した。
「『ソリス』の町に住む人々よ!よく聞くが良い!」
その声に一瞬で人々は静まり返る。
「この町に水が再び蘇ったのは、ここにいる次期王妃となるクラウディアのお陰だ!彼女がお前達の町を救ったのだ!それを肝に銘じておくように!」
すると……。
「次期王妃様!バンザーイ!!」
先程の青年が声を上げた。
それを皮切りに人々が次々に私を称賛する声が上がり始めた。
「次期王妃様は我々の救世主だ!」
「ありがとうございます!!」
「我々は貴女を歓迎致します!!」
まさか、ここまでうまくいくなんて……。これもアルベルトのお陰かもしれない。
隣に立つアルベルトを見ると、私の視線に気付いた様子でこちらを見た。
「クラウディア、見たか?『ソリス』の町人達は……もうこれで二度とお前を悪く言うことはあるまい」
そして私に笑みを浮かべた――。
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