第2章 79 生命の水

 私達は伯爵と共に先程のため池へと戻ってきた。


 先程ついて来ていた町の人達は疲れている様子だったので、彼らには広場で待っていてもらっている。


 ため池に到着すると伯爵が振り返った。


「と、到着致しましたが……これからどうされるのですか……?」


 アルベルトに先程叱責されたことから、伯爵はすっかりビクビクしている。けれど彼が怯えるのも無理はない。

 何しろ相手は国王、そして背後にいる4人の護衛騎士達は両脇に大振りの剣をさしているのだから。


「では、皆さん少し下がって頂けますか?」


 あまり錬金術で作り出したアイテムを見られたくは無かった。本来は1人でため池に来たかったのだが、それでは意味が無い。

 何故なら私は『エデル』の人々から信頼を得なければならないからだ。



「何故下がらなければならないのです?」


 尋ねてきたのは伯爵だった。彼はアルベルトのことは恐れていても、やはり私のことは見下しているようだ。


「それは……」


 何と答えようか考えていると、アルベルトがすぐに返事をした。


「分かった、全員クラウディアの言う通り下がれ」


 え……?


 その言葉に思わず私はアルベルトを見た。てっきり彼にも理由を問われると思っていたのに?


「どうした?クラウディア」


 アルベルトが首を傾げて私を見た。


「い、いえ。何でもありません。それでは皆さん、お願いします」


 

 全員がため池から少し離れたところで、ポケットに忍ばせておいたガラスの小瓶を取り出した。瓶の中には水色に光り輝く液体が入っている。


 このガラス瓶の中の液体は曾祖母の日記帳に記載されていた『生命の水』が入っいる。

 私はあの後、日記帳を何度も読み返し……これならすぐに作れると判断し、とりあえず1瓶だけ作ってみたのだ。この『生命の水』は元々水のあった場所で使うことにより、そこから新たな水を生み出すことが出来ると記述されていた。


「お願い……どうか、うまくいって……」


 祈るような気持ちで瓶の蓋を外すと、すっかり枯渇してしまった溜池の中に数滴垂らしてみた。

 干からびた大地に垂らされた『生命の水』はあっという間に乾いた土の中に吸い込まれるように失われていく有様だ。


「これでは……足りないのかしら……」


 それとも私の錬金術がうまくいかなかったのだろうか?

 どうしよう……。もうすこし『生命の水』を垂らしてみようか……。


 そう考えていた矢先――。



「え……?」


 突如、先程『生命の水』を垂らした場所から、突然水が湧き出てきたのだ。

その勢いは凄まじいもので、 ザアザアと激しい水音を立てて水しぶきがかかるほどだった。


 その異変は少し下がった場所にいたアルベルト達にもすぐ気付いたようだった。


「どうした?!クラウディア!何があったのだっ!」


 アルベルト達が駆けつけてくると、息を飲んだ。



「こ、これは……」


「アルベルト様……」


 私達の眼前にある溜池にはほんの僅かな時間ですっかり水が満たされていたのだった――。

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