第2章 64 迷惑な訪問者

 その後、謹慎処分が解かれたリーシャは仕事があるからと言って部屋を出て行った。再び一人になった私はベッドに横たわると、指輪を見つめた。


「知らなかったわ……。賢者の石を白くする方法があったなんて……」


一体、アルベルトは何処まで賢者の石の秘密を知っているのだろう?それとも彼も私と同様、錬金術師だったのだろうか?


「もう……訳が分からないことだらけだわ……」


その時、扉の外で何やら騒がしい声が聞こえて来た。


『いいえ、なりません。クラウディア様は目が覚めたばかりなのですよ!』


マヌエラの声だ。


『何を生意気な……!一介の侍女のくせに、宰相である私の命令が聞けないのか!』


『この城で国王陛下の次に権力のある方はクラウディア様です』


『まだ妃になってはいないだろう!』


言い争いは増々激しくなってくる。これ以上、マヌエラが逆らえば……後で彼女は酷い目に遭うかもしれない。

そこでベッドサイドに置いたガウンを羽織ると扉を開けに向かった。


扉を開けると、マヌエラと怒りで顔を赤くした宰相。そしてカチュアがいた。

まさか……彼女迄連れていたとは思わなかった。


「あ!クラウディア様!動いて大丈夫なのですか⁈」


マヌエラが驚いた様に声を掛けて来た。


「ええ、大丈夫よ。ところで何をそんなに騒いでいるのかしら?」


すると宰相が早速声を掛けて来た。


「クラウディア様、目が覚めたという知らせを聞いて早速面会に参りました」


「はい、そうです」


カチュアは笑みを浮かべて私を見つめている。


「分かりました。どうぞお入り下さい」


扉を大きく開け放つと、マヌエラが驚きの表情を浮かべた。


「クラウディア様、よろしいのですか?まだ体調も回復していらっしゃらないのではありませんか?」


「いいえ、大丈夫よ」


返事をすると宰相が意味深な台詞を吐いた。


「ええ、そうですよ。いつまでもお部屋に閉じこもりきりですと、更に悪い噂が流れるとも限りませんからな。早めにお姿を見せるのが良いでしょう」


「え?それはどういう意味なの?」


「リシュリー宰相!口を慎んでください!」


するとマヌエラが声を荒げた。ひょっとして何か彼女は知っているのだろうか?


「マヌエラ、何か私に関して良くない噂でも流れているの?」


「え?あ、あの……それは……」


しかし、私の質問に何故かマヌエラは言葉を濁す。すると宰相が声を掛けて来た。


「その話でしたら私の方から御説明致します。ではお部屋に入れて頂けますかな?」


「ええ、分かりました……。どうぞお入り下さい」


宰相とカチュアは私の言葉に頷き、部屋に入って来た。


「クラウディア様……」


マヌエラが心配そうな目で私を見つめる。


「マヌエラ、悪いけど3人分のお茶を持ってきて貰えるかしら?」


「は、はい。分かりました。至急お持ちします」


マヌエラは踵を返すと、急ぎ足で去って行った。


その姿を見届けた私は部屋の扉を閉め、既にソファに座っている宰相とカチュアの元へ向かった――。

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