第2章 46 周囲の意見
回帰前の私は派手な柄のドレスが好きだった。
鮮やかな赤い色のドレスや、オレンジ色のドレス、紫色のドレスなどを好んで着ていた。
けれどこの世界で命を落とし、日本人として生まれ変わってからは青や水色のような色を好むようになっていた。
それは無意識の内に血の色を連想させるような色が嫌いになったからかもしれない。
断頭台で飛び散った血を連想させる色が……。
「それにしても、陛下がご用意したドレスの色はどれも同じような色合いのドレスですね。青や水色のような系統が多いように思います」
「え?」
リーシャに指摘されるまで気付かなかった。
確かにクローゼットの中は青系統のドレスばかりが吊り下げられていた。
「不思議なものね……」
アルベルトは私の好みの色など知っていただろうか?
けれど私の疑問を他所に、リーシャが無邪気に尋ねて来た。
「クラウディア様、こちらのドレス等いかがですか?」
リーシャが取り出したドレスは淡い水色のデイ・ドレスだった――。
「良くお似合いですよ?クラウディア様」
私の髪を両サイドで緩く結び、背中に垂らした金の髪をブラッシングしながらリーシャが声を掛けて来た。
「そ、そう?でも何だかこのヘアスタイル……若い娘みたいで少し恥ずかしいわね」
するとリーシャが目を見開いた。
「何を仰っているのですか?クラウディア様はまだ20歳ではありませんか?当然のヘアスタイルだと思いますけど?」
少し唇を尖らせたリーシャは何故か娘の葵を連想させてしまう。
「そ、そうね。確かにその通りだわ」
外見は回帰前の自分に戻っても、精神だけはどうしても前世の橋本恵を引きずってしまう。
「はい、完成です。クラウディア様、とてもお美しいですよ。きっと陛下も喜ばれることです」
リーシャが背後から鏡の前の私に語り掛ける。
「ありがとう」
アルベルトが私の姿を見て喜ぶとは思えないけれども、リーシャの為にお礼を述べた。
「あ、後15分でお夕食の時間になりますね。そろそろダイニングルームへ行かれてはいかがですか?」
リーシャが時計を見ると声を掛けて来た。
「ええ、そうね。お待たせしてはいけないものね」
「どうされますか?どなたか迎えに来られるかもしれませんが……」
「いいわ。誰も来ないかもしれないし、1人でダイニングルームへ行くわ」
その時――。
コンコン
扉のノック音が部屋に響いた。
「あ、ひょっとするとお迎えかもしれませんよ?」
リーシャは嬉しそうに扉を開けに向かい……私に声を掛けて来た。
「クラウディア様、マヌエラ様がいらっしゃいました」
「マヌエラが?」
リーシャの背後にはマヌエラが立っている。
「クラウディア様、お迎えに上がりました」
「ありがとう、今行くわ。」
返事をするとリーシャにも声を掛けた。
「それでは行ってくるわね?」
「はい、行ってらっしゃいませ」
そして私はリーシャに見送られながら、マヌエラと一緒にダイニングルームへと向かった。
****
「お加減はいかがですか?クラウディア様」
歩き始めるとすぐにマヌエラが声を掛けて来た。
「ええ。大丈夫、この通りもう元気よ」
「それを聞いて安心しました。陛下が図書館から意識を失っているクラウディア様を抱えて歩く姿を見た時は本当に驚きました」
「そ、そう?心配かけてしまったわね」
アルベルトが私を抱きかかえて部屋まで連れて来たと言う話は、未だに信じ難いことだった。
「本当に陛下はクラウディア様を大切に思われているのでしょうね」
「大切……」
リーシャもそう言っていたが、本当にそうなのだろうか?回帰前のアルベルトと今のアルベルトがあまりにも違い過ぎるので、私は何を信じればよいのか分からなかった。
「どうかされましたか?」
マヌエラが不思議そうに尋ねて来る。
「いえ、何でも無いわ」
返事をしたその時――。
「どちらへ行かれるのですか?」
背後から突然声を掛けられた――。
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