第2章 41 回帰前の気持ちの変化
回帰前、カチュアとアルベルトは2人でよく一緒に王宮図書館で過ごしていた。
図書館が見える中庭から、私は2人が仲睦まじげに本を読んでいる姿を悲しみと恨みがましい気持ちで見つめていたのが随分遠い過去に感じる。
あの頃の私はアルベルトに恋い焦がれていたけれども、今にして思うと何故あれ程までに彼に執着していたのか分からない。
回帰後の私は自分でも驚くほどにアルベルトに興味も無ければ、恋する気持ちを微塵も持っていないと言うのに。
その時、私はあることに気付いた。
「ねぇ、マヌエラ」
前方を歩くマヌエラに声を掛けた。
「はい、何でしょうか?」
マヌエラは立ち止まると振り返った。
「宰相は私が図書館へ入ることを許可しているのかしら?」
「いいえ?何故リシュリー様の許可が必要なのですか?クラウディア様に王宮図書館への出入り許可を出されたのは陛下なのですから」
「でも……宰相は私のことを敗戦国から来た人質妻として、疑いの目を向けているのよ。私が王宮図書館へ出入りしていることを知られたら良くない気がするわ」
するとマヌエラは目を見開いた。
「何を仰るのですか、クラウディア様。この『エデル』で一番権力がある方は国王陛下、そしてその次が王妃殿下になられるクラウディア様なのですよ?」
「え……?で、でも宰相や『聖なる巫女』の存在は……?」
回帰前、宰相とカチュアは絶大な権力を握る存在だった。
宰相はアルベルトの右腕として、そしてカチュアはアルベルトの恋人として……。
「クラウディア様、実は先ほどリシュリー宰相に理不尽な目に遭わされたと報告を受けております」
不意にマヌエラが小声になる。
「え?誰からその話を……?あ、まさか……」
「はい、リーシャから話は伺いました。ですが御自身で解決されたそうですね」
「ええ……」
するとマヌエラは真剣な目で私を見た。
「今後は困りごとがあれば、私に相談して下さい。私はクラウディア様の侍女ですから。必ずクラウディア様のお役に立ちます」
「‥‥ありがとう、マヌエラ」
彼女はアルベルトが私につけた侍女ではあるけれども……信頼しても良いのかもしれない。
「それでは王宮図書館へ参りましょう」
「ええ」
私とマヌエラは再び王宮図書館へと向かった――。
****
「こちらが王宮図書館です」
マヌエラが案内した場所は回廊の一番奥にある円形の大きな建物だった。
目の前には木製の大きな扉があり、ドアノッカーが取り付けてある。
この建物は美しい園庭の中に建てられ、王族と一部の選ばれた者のみが入ることの出来る聖域でもあった。
回帰前……私はどんなに願っても一度もこの図書館への立ち入りを許されることは無かった。
ただ、中庭から惨めな気持ちで図書館の様子を……アルベルトとカチュアが楽し気に恋人同士の時間を過ごしている現場を見つめる事しか出来なかったのだ。
「本当に……この図書館へ入っていいのかしら?」
私は隣に立つマヌエラに尋ねた。
「ええ。勿論でございます。私は中に入ることは出来ませんがどうぞお入りください。中にいる司書には既に話を通してあります」
「ありがとう。それでは行ってくるわね」
私はドアノッカーを握りしめると、扉をノックした。
この時の私は、まだ何も知らなかった。
何故、今回アルベルトが私に王立図書館への出入りを許したのかを――。
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