第2章 37 激高する宰相
カチュアのことはさて置き、とりあえずは何やら激高している宰相を相手にする方が先だ。
「リシュリー宰相、私に何か御用でしょうか?」
すると、宰相は眉を吊り上げた。
「クラウディア様。貴女に伺いたいことがあります。一体どんな姑息な手を使って彼らの居場所を突き止めたのですか?鍵を預けた兵士から話は聞きました。貴女はあの監獄の中に入れた者達を全員解放したそうではありませんか?」
「……」
宰相の言葉に呆れて二の句が継げなくなってしまった。
姑息な手?
何の罪も無い彼らを勝手に罪人扱いして監獄に入れておいて何という言い草だろう。
宰相は私が黙っているのをいいことに、言葉を続ける。
「奴らは罪人です。城の者達には奴らの居場所は明かさぬように緘口令を敷きました。なのに貴方は奴らの居場所を何なく探し当てた。一体これはどういうことですかっ?!」
宰相は興奮のあまり、ユダ達を奴ら呼ばわりする。
回帰前には気付かなかったが、この人物はちょっとしたことですぐに激高する性格のようだ。
心の中でため息をつくと、宰相を見た。
「その前に、まずは説明して下さい。一体ユダ達がどのような罪を犯したと言うのですか?彼らは単に私を守りながらここまで連れてきてくれた大切な仲間達ですよ?」
すると宰相がにやりと笑った。
「成程……1人、クラウディア様に会わせろと叫んでいた男がおりましたが……奴の名前がユダというのですな?全く、この私に向かってあのようなぞんざいな口を叩くとは……」
大げさな態度で宰相は俯き、ため息をつくと私の方を向いた。
「それこそが奴らの罪ですよ」
「何ですって?」
その言葉に眉をしかめた。
「クラウディア様、貴女は何か勘違いしておられるかもしれませんのでこの際はっきりと申し上げておきましょう。貴女は確かに陛下に嫁いでこられた花嫁かもしれませんが、所詮は敗戦国の姫。要は『レノスト』王国の人質となる為に陛下と婚姻されるのですよ?言うなれば貴女は戦争犯罪を犯した罪人家族の一味と言っても過言では無い」
「そんなっ!」
宰相の辛辣な言葉にリーシャは悲鳴交じりの声を上げる。
「そんな罪人に……奴らが旅の間にクラウディア様に心を許すなど……これは重罪に匹敵します!しかし、それでも奴らは危険地帯を通り抜けてクラウディア様を無事に『エデル』まで連れて来た。だからチャンスを与えたのです。貴女が彼らを無事に見つけられるかどうかを。恐らく絶対に不可能のはずでしたからね」
何処までも憎々し気な態度で語るリシュリーは流石に常軌を逸しているようにも思える。
「では、リシュリー宰相は初めから私がユダ達を探し出せるはずは無いと思っていたのですね?ならあのまま彼らをあんな場所に投獄し続けるおつもりだったのですか?」
冷静に話しているつもりも、つい宰相に怒りを感じて声が震えそうになってしまう。
「ええ。ですから私はクラウディア様が私に泣きついてくるのを待っていたのに、まさかご自身で奴らの居場所を見つけ出すとは‥…。さぁ、私は質問に答えました。今度はクラウディア様が私の質問に答える番です。一体どのような手を使って奴らの居場所を突き止めたのですかっ!」
「それは……」
言えない‥‥理由など言えるはずが無かった。
思わず言葉に詰まってしまった。
すると……。
「それは私がクラウディア様に彼らの居場所を教えたからです。そうですよね?クラウディア様」
今まで成り行きを黙って見つめていたカチュアが突然口を開いた――。
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