第2章 38 とんだ茶番劇

「え……?」


突然声を掛けられて戸惑う私を他所に、カチュアは一体どういうつもりなのか宰相の方を向いた。


「何?まさか…カチュア殿がクラウディア様に奴らの居場所を教えたのですか?」


宰相が目を見開く。


「ええ、そうです」


「何故そのような真似をなさったのですか?私に何の断りも無く……」


「それはあまりにもクラウディア様がお気の毒だったからです」


そしてカチュアはチラリと私の方を見ると、再び宰相に視線を戻した。


「だが、しかし……」


「良く聞いてください、リシュリー様。確かにクラウディア様の母国はこの国に宣戦布告してきました。けれど、クラウディア様には何の罪もありません。むしろ被害者の1人だと思います。敗戦国となり、領地迄奪われてしまったのですから。挙句の果てには人質としてこの国に嫌々嫁がされてしまった気の毒なお方です」


「むぅ……確かに言われて見ればそうかもしれませんな……」


宰相は腕を組んで考え込む素振りをしている。

2人のそんな様子を見ながら私は思った。


とんだ茶番劇だと。

彼らは私が何も気づいていないとでも思っているのだろうか?

このような見え透いた演技で私が騙されるはずが無いのに。


当初の宰相の筋書きでは、恐らく私は悪評をばらまきながらこの国に到着する予定だったはずだ。

けれど、予想外の出来事があった。

それが旅の同行者だったユダ達の存在だ。

彼らは私の旅先での行動に共感し、信頼を寄せてくれるようになった。


そこでやむを得ず宰相はこじつけとも思える理由でユダ達を投獄し、私を困らせることにしたのだろう。

そして私を庇う役が、カチュアと言うわけだ。



少しの間、宰相と話をしていたカチュアが突然私の方を振り向いた。


「クラウディア様、ご安心なさって下さい。リシュリー様が許して下さいました」


「え?許す?」


一体何のことだろう?


「ええ、彼らを監獄から出したことですよ……本来であれば彼らはクラウディア様が御自身で見つけられなければずっと閉じ込めておくつもりでした。ですがカチュア様

が彼らを許して欲しいと頼んで来たのであれば、奴らを罪に問うわけにはいかないでしょう?」


そして宰相はカチュアに目を向けた。

その素振りはまるで私にカチュアに礼を述べるようにと命令しているように感じられた。


仕方ない……。

私にはカチュアに礼を述べる義理は全く無かったが、早くこの厄介ごとから解放されたかった。


「カチュアさん、どうもありがとうございます」


私の背後に立っているリーシャからは明らかに不満げな様子が感じ取れる。


「いいえ。お礼を言われるほどのことではありませんが……でも、少しでも私がクラウディア様のお役に立てたと言うのであれば…‥‥」


カチュアはグルリとこの部屋を見渡すと、再び私に視線を移した。


「もし、宜しければこちらのお部屋を私に譲って頂けないでしょうか?」


そして彼女はニコリと口元に笑みを浮かべた――。

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