第2章 4 しばしの?別れ

 馬車から1人で降りて外に出て見ると、既に荷馬車から降りたトマスとザカリーの姿も兵士達の中に紛れていた。


 ユダはまっすぐ開門された大扉の前に立つ2人の騎士に挨拶をした。


「ただいま『レノスト』国の王女様をお連れ致しました」


すると1人の騎士がこちらを一瞬チラリとみると、すぐにユダに尋ねた。


「おい、いい加減なことを言うな。どこに王女がいるのだ?見たところあそこにいるのは薄汚れた身なりの2人の女しかいないじゃないか」


「ああ、その通りだ。それともあそこで男に抱きかかえられている女が王女なのか?それにしても…全員小汚い格好だな……。まさかお前は物乞い女でも連れて来たのか?」


そして騎士は馬鹿にした表情でユダを見た。


「クッ…」


騎士達の言葉にスヴェンが悔しそうに唇を噛む。

他の兵士やトマス、ザカリーも騎士たちの言葉に怒りを抑えているのが伝わってくる。


「!いいえっ!決してそのような事はありません。あちらにいらっしゃるお方こそが、『レノスト』王国の王女様でいらっしゃるクラウディア様です!」


「嘘をつくな!貴様は任務すらまっとうにこなせないのか!」


「一生貴様のような男はただの兵士でいるんだな!」


ユダ……。


騎士達がユダを馬鹿にしている姿を見るのは耐え難かった。

そこで私は自ら騎士達の元へ向かった。


「お、おい?姫さん?」


スヴェンの狼狽えた声が聞こえたけれども私は構わず騎士達の前に立つと足を止めた。


「何だ?薄汚れた物乞い女め」

「早く城の外へ出て行け」


1人の騎士は煩げに手で私を払うフリをする。


彼らの態度は回帰前と似て異なる。

あの時は一番美しいドレスを着てはいたものの、『エデル』へ到着するまでに私の悪評が広がり、騎士から心無い言葉を投げつけられたのだった。

あの時は彼らの酷い態度に激怒したけれども、今の私はそのような態度を一切取るつもりは無い。


「いいえ、そこの兵士の言う通りです。このような身なりをしてはおりますが、私は間違いなく『レノスト』国の第一王女であるクラウディア・シューマッハです。疑うのであれば、これを見せましょう」


メッセンジャーバッグから封筒を取り出すと、右側に立つ騎士に手渡した。

その封筒には王家の封蝋が押されたアルベルトのサイン入りの『結婚同意書』が入っているのだ。


「ふん、こんなもので…」


騎士は封筒から手紙を抜き取り、目を通し始め‥‥顔色が青ざめていった。


「も、申し訳ございません!確かにこれは‥‥国王陛下直筆のサインです!」


「大変失礼致しました!」


2人の騎士は必死で頭を下げて来た。


「い、いえ‥‥。分かればそれで私の方は構わないけれど…?」


内心不思議に思いながら私は返事をした。

前回は私がクラウディアだと分かっていながら態度を変えることは無かったのに、今回はまるで手の平を返したかのような態度を取る騎士達。


ひょっとすると、アルベルトのサイン入り結婚同意書が功を成したのかもしれない。


「それでは謁見の間へご案内致します。それで…あちらの女性は…?」


騎士はスヴェンの腕に抱かれて意識を失っているリーシャを見た。


「彼女は私のメイドなの。旅の疲れで眠ってしまったから部屋を与えて欲しいのだけど」


「はい、承知致しました」


別の騎士が返事をする。


「それではあの騎士にお連れの方はお任せ下さい。今から謁見の間へご案内させて頂きます」


「ええ、お願い」


「ではこちらへどうぞ」


騎士が先頭に立って歩き始めたので、その後をついて歩き始めた時……。


「姫さんっ!」

「クラウディア様っ!」


スヴェンとユダが私を呼んだ。


振り返ると、そこには私を真剣な目で見つめる2人の姿があった。

城に入れば最後、2人に会うことは二度と無いかもしれない。


だから笑顔で声を掛けた。


「今までありがとう!」


「「!!」」


言葉を無くす2人に背を向けると、私は騎士に連れられて謁見の間へ向かった――。



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