第1章 120 シーラの尋問
「シーラ。お腹が空いているんじゃないの?このシチュー、とても美味しいわ。食べてみない?ほら、皆も食べているから」
後ろを振り返ると、テーブルに座って食事をしているスヴェン達の姿があった。
「ですが…」
「私も食べるから、一緒に食べましょう?ほら。この縄も解いてあげるわ」
もうこの様子では歯向かうことは無いだろう。
「はい…お願いします…」
力なく返事をするシーラの背後に回り、私は縄をほどき始めた。
その場にいる全員は食事をしながらも、シーラの動きを注視しているのがひしひしと伝わってくる。
「はい、解けたわ。それじゃ一緒に座って頂きましょうか?」
わざとシーラの前にシチューの皿を見せて、臭いを嗅がせる。
「分かりました…」
シーラの目は力を無くしている。
2人でテーブルの隅に腰掛けると、私はシーラの向かい側に座った。
「それでは頂きましょう?」
「はい、クラウディア様」
そして、ついにシーラはサジでシチューをすくうと口に入れた。
「どう?味は?」
「はい、とっても美味しいです」
嬉しそうに笑うシーラ。
「そう?それじゃ冷めない内に食べてね?」
「はい!」
シーラは私の言葉通りに、次から次へとシチューを口に運び…あっという間に完食してしまった。
「……」
私は少しの間、シーラの様子を伺っていたが…声を掛けてみることにした。
「シーラ、立ちなさい」
「…はい、クラウディア様」
シーラは立ち上がった。
「貴女が所属する組織の名前は?」
「はい、『ニルヴァーナ』と言います」
「『ニルヴァーナ』……」
回帰して初めて耳にする組織だ。
「『ニルヴァーナ』とは、どういう人達の集まりなの?」
「構成員は主に魔術師です」
「貴女の魔術はどういう魔術なの?」
「はい、相手の精神を乗っ取る魔術です」
「方法は?」
「自分に心を許した相手の瞳を見つめて、眠らせてから精神支配します」
その話に思わずゾッとした。
やはり目隠しをして拘束したのは正解だったかもしれない。
周囲にいた人達もいつの間にか私達の周りに集まり、シーラの話を聞いている。
「分かったわ…。それでは尋ねるけど、貴女は私を連れて逃げようとしていたわね?どうやって逃げるつもりだったの?」
「はい。私の仲間がクラウディア様のお供についてきています。彼は瞬時に別の場所に移動することが出来る魔法陣を描くことが出来る魔術師です」
「な、何だってっ?!だ、誰だっ!その人物の名前はっ!!」
突如、ユダが声を上げた。
「……」
しかし、シーラは返事をしない。
「ユダ、シーラは私の言うことしか聞かないわ」
「クラウディア様…。わ、分かりました。では彼女に尋ねて下さい。その人物は何者なのか」
「ええ、分かったわ」
私はシーラに向き直ると再び尋ねた。
「シーラ、その人物は誰なの?」
「はい、カイロと言う名を名乗って私達と一緒についてきています」
「カイロ…?」
私は『エデル』の使者達全員の名前を知っているわけでは無いけれども、ユダの顔が青ざめた。
「カイロだって?!」
ユダが声を上げたその時……。
「おいっ!逃げるなっ!」
「捕まえろっ!」
「待てっ!!」
外で大きな叫び声が響き渡った――。
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