第1章 111 脅迫
「この身体を返すかどうかはクラウディア様、貴女次第ですよ」
「私…次第……?」
「ええ、そうです。大人しく我々についてきてくれると仰るのであればこの身体は返します。でも……そうですね。もしクラウディア様が拒絶すると言うのであれば、あまりこの手は使いたくはありませんでしたが……」
すると突然、シーラはポケットに手を入れて何かを取り出した。
「クラウディア様、これが何かお分かりですか?」
「え…?」
よく見ると、シーラが手にしているのは小型のナイフだった。
ま、まさか……。
「よく見て下さい、クラウディア様」
シーラはナイフの鞘を外すと床に落とした。
カラーン
木の床板の上に乾いた音が響き渡る。
そして……。
何と、シーラは自分の首に小型ナイフを押し付けたのだ。
「な、何をするのっ?!」
思わず叫んだ。
「フフフ……どうですか?クラウディア様。元々この身体は私の身体では無いのです。仮にこの身体に……致命傷の傷を追わせたとしたら?どうなると思います?」
「そ、そんなことをすれば……死んでしまうわっ!だ、だいたいシーラ。貴女だってただではすまないはずでしょうっ?!」
するとシーラは首を振る。
「いいえ、そんなことはありません。致命傷を負わせた後、私はすぐに元の身体に戻るだけですから……。大丈夫、今までこのやり方で失敗したことはありませんから」
シーラの言葉にぞっとした。
「失敗……したことはない……?それって……」
「ええ、そうです。一度や二度ではありませんから」
まるで大したことでは無いとでも言いたげにサラリと言って退けるシーラに言いしれぬ恐怖を感じた。
「そ、それでは…貴女は過去にも何人もの人を……?」
「ええ、そうですよ。ついでに言えば……私はクラウディア様よりはずっと年上ですから。それにしてもどうですか?私の演技……中々のものだったでしょう?」
何故か得意げに話すシーラ。
「ええ……そうね。私も…ずっと騙されていたもの…」
けれど、それを言うなら私もそうかもしれない。この人生は2度めの人生であることを誰にも言わず……先読みして今まで行動してきたのだから。
「どうですか?我々と来る気になれましたか?リーシャに死んでもらいたくはないのですよね?私だって本当はクラウディア様を困らせることは不本意なのですから。何しろクラウディア様はまだ20歳とは思えないほど落ち着いていらっしゃいますし、しかも命を懸けて、あの難しい術式を駆使して錬金術を行えるのですから」
シーラは自分に酔ったように話し続けている。これは…まだひょっとするとマンドレイクの毒が残っているのかもしれない。
なら、まだリーシャを救えるチャンスがあるかも……。
もっと時間を稼げれば……。
私は心の中で祈った。
スヴェンかユダが異変に気づいてここへ来てくれれば……!
「さぁ、どうしますか?クラウディア様。いいのですか?大切なリーシャが死んでしまっても……」
更にシーラは首にナイフを押し付ける。
「や、やめてっ!そ、それでは【エリクサー】と【聖水】を大量に作るわ!それを渡すことで見逃して貰えないかしら?!」
「……そうですね……」
シーラは一瞬考え込む素振りを見せたが……首を振った。
「いいえ、やはり受け入れられませんね。クラウディア様を連れていけば、いつでも【エリクサー】と【聖水】を作ってもらうことが出来るのですから」
「そ、そんな……」
「では……可愛そうですが、リーシャには犠牲になって頂きましょうか……」
シーラがナイフを振りかざした!
「やめてーっ!!」
私の叫び声が部屋に響き渡った――。
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