第1章 110 シーラ
「そ、そんな……私は今までずっと貴女がリーシャだと思っていたのに……。だって顔も声も……何一つ一緒じゃないの……?」
自然とシーラから距離を取るような形で問いかけた。
「ええ。それは当然です。正確に言えば‥‥この体はリーシャそのものですから」
「え?」
一体何を言っているのだろう?
「私はクラウディア様のような錬金術師ではありませんが、実はある特殊な魔法を使うことが出来るのです。その為に今の組織に拾われたのですけど」
ニコリと笑みを浮かべるシーラは随分大人びて見えた。
「特殊能力……?そ、それは一体……?」
「はい。対象人物に自分の精神を乗り移らせることです。この魔法はとても優れているのですよ?精神を乗っ取った人物の基本的情報程度なら共有することが出来るのですから」
シーラは自分の頭部に人差し指を当てながら説明する。
「ま、待って……。それじゃ、リーシャは?貴女に精神を乗っ取られたリーシャはどうなっているの?!」
まさかリーシャの身に‥‥!
「あぁ、それならご安心下さい。クラウディア様のリーシャの精神なら、この身体の中で深い眠りに就いていますから。私がこの身体から出て行けばすぐにでも解放されますよ?」
「そうなの?それなら貴女の身体は今どこにあるの?」
私はシーラに質問を続け‥‥今の状況をどうすれば打開できるか考え続けた。
「私の身体ですか?私の身体は今は『レノスト』国にいる仲間の魔法によって守られています。その魔法を掛けられている間は時間も止められるのですよ。私がその気になればいつでも自分の身体に戻ることが出来ます。つまり、私達のような魔法を使える者を集めるだけの力が所属する組織にあると言う事です。
「……」
私は黙ってシーラの話を聞いていた。それにしても‥…何故、彼女はここまで自分たちの秘密を聞かせてくれるのだろう?
「シーラ。いいの?そんな簡単に貴女の属する組織のことを私に話しても……」
警戒しながら質問した。
「ええ、勿論です。何故ならクラウディア様は特別なお方。我々組織は強大ですが、残念なことにまだ錬金術師は1人もいないのです。いえ、それどころかお会いするのも初めてです。初めて『クリーク』の村で【エリクサー】の効果を目の当たりにした時は感動で震えました。恐らくクラウディア様は優秀な錬金術師に違いないと思っておりましたが‥‥今回の件で確信を得ました。まさか全ての毒を浄化できる【聖水】まで作り出せるなんて、まさに感動です」
シーラ程の魔法を使える人物が、それほど錬金術師を絶賛するとは思わなかった。
そして彼女の話はまだ続く。
「クラウディア様こそ、我らの組織に必要な方です。貴女のような偉大な方が人質として『エデル』に嫁ぐ必要などどこにもありません。そうは思いませんか?」
「思わないわ……。思えるはずがないじゃないの。そんなことをすれば城に残された人々がどうなるか分かるでしょう?私は皆を守る為に『エデル』に嫁ぐのよ」
「…愛されなくてもですか?」
「ええ、勿論よ。愛されなくても構わないわ」
何故なら私は前世で本当の愛を知ることが出来たから。
両親からの愛‥‥そして、愛する夫や子供たちの愛を……。
それに恐らく回帰前と同じであれば結婚間もなく、『聖なる巫女』がアルベルトの前に現れるはず。
そうすればすぐに2人は愛し合うことになるだろう。
前回は悪妻として処刑されてしまったけれども、今回はそうはならない。
私は穏便に彼と離婚をし‥‥『レノスト』国へ帰ると決めているのだから。
何より、今一番重要な事はただ一つ。
「そんな話はどうでもいいわ。私は逃げるつもりは一切無いの。それよりもリーシャの身体を返して頂戴」
私は目の前にいるシーラにきっぱりと言い切った――。
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