第1章 106 リーシャの説明

 テーブルの上に置いた小皿に入れた【聖水】を並べると、私はその場にいた全員に声を掛けた。


「とりあえず、ここにいる皆さん全員でもう一度【聖水】を飲んで下さい」


私の言葉に『シセル』の村人たちは頷くと、それぞれ小皿に手を伸ばして【聖水】を口にした。


「姫さん、俺たちも飲むのか?」

「我々はもう飲んでいますが……?」

「え?私もですか?」


スヴェン、ユダ、リーシャが戸惑いながら尋ねてくる。


「ええ、当然あなた達もよ。勿論私も飲むから」


先程の様子から、どう見てもこの3人の体内にはマンドレイクの毒が残っているとしか思えない。


私が小皿を手にし、【聖水】を飲み干すのを見た3人もそれぞれ口にする。


「それでは、誰が説明してくれるのかしら?」


その場にいる全員をグルリと見渡すとリーシャが手を上げた。


「はい、では私から説明させて下さい」


「ええ、ではお願い」


「はい。クラウディア様」


リーシャは返事をすると、それまでの経緯を説明し始めた。


あの後、トマスとリーシャはマンドレイクの畑を探し出して【聖水】をかける作業を始め、徐々に毒霧が治まって来たところに解毒から目覚めた仲間たちがやって来た。

そこで現れたユダとスヴェンが私の行方を尋ね、何処へ行ってしまったのか分からないと答えると、慌てて2人は私を探しに行ってしまったこと。


その為、残された仲間たちでマンドレイクの解毒作業を続けていたものの、【聖水】が無くなってしまったので荷馬車の中で休んでいた。


そこへ村の様子を見に地下から出てきたザカリー達を発見したので私の行方を尋ねたると、地下にある檻の中に閉じ込めている話を聞かされたそうだ。


「その時なんです。偶然クラウディア様を探していたスヴェンさんとユダさんが戻ってきたのは」


リーシャが背後にいるスヴェンとユダを振り返った。


「ああ、そうなんだ。こいつら……とんでもないやつだ。俺の姫さんに酷いことしやがって」


「ああ、全くだ。よりにもよって、俺の大切なクラウディア様に無礼を働くとは……許しがたい奴らだ」


スヴェンとユダが忌々しげに言うものの……もう、私を所有物化する言い方には何も聞いていないことにしておこう。


「はい……本当に申し訳ございません……」


ザカリーを始めとして、『シセル』の村人たちは申し訳無さそうに頭を下げている。


「もうその事はいいわ。だってこの村を苦しめていた原因は紛れもなく私達王族なのだから。あなた達が私に怒りを向けるのは当然のことよ。だから頭を上げてちょうだい」


私の言葉に村人たちは顔を上げると、ザカリーは私に訴えてきた。


「王女様、俺は死罪にされても当然のことをしてしまいました。なので、これからは王女様の下僕として仕えさせて下さい!聞くところによると、王女様は輿入れの為に『エデル』へ向かわれていると伺いまいした。俺もその旅に同行させて下さい。こう見えても剣術には自信があります!」


『エデル』に到着すれば、私の周囲は敵だらけになってしまう。けれど、少しでも私の味方が近くにいてくれれば心強い。


「ザカリー……」


私が声をかけようとした、その時――。


「「駄目だっ!!」」


スヴェンとユダが息ぴったりに即答した。


「スヴェン?ユダ?」


何故2人が反対するのだろう?


「貴様、そういう事を言って、俺の姫さんに近づくつもりだろう?」


「ああ、そうだ。だがスヴェンッ!俺の姫さんと言うなっ!クラウディア様は俺のものだ!」


「何を言ってるのですかっ!クラウディア様は国王陛下に嫁ぐお方なんですよ!」


そこへリーシャが割って入り……3人はまたそこで激しい言い争いを始めてしまった。


どうやら3人はマンドレイクの妙な後遺症?が残ってしまったようだ――。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る