第1章 100 解毒への挑戦
「足かせをはめているのはここから脱走出来ないようにする為だ。だが、昨日1人脱走してしまって、今も行方不明なのさ。どうやら足かせが腐っていたようだ。何しろ木製だからな」
松明で、檻の中のマンドレイク中毒者を照らしながらセトが説明した。
「そうですか……」
それではあの時、現れたのが恐らくマンドレイク中毒で監禁されていた人物だったのかもしれない。
その人は今一体どうしているのだろう?
「全員今は理性を無くした獣のようになっている。薬を飲ませるなら全員で押さえつけるしかなさそうだな。それじゃ早速始めるか。…誰から薬を飲ませるんだ?」
セトがその場にいる全員に尋ねた。
すると……。
「俺の父親から飲ませてくれ」
ザカリーが手を上げた。
「え……?」
ひょっとして私を信用してくれたのだろうか?
思わずザカリーを見上げると、彼は不敵な笑みを浮かべた。
「何をそんな目で俺を見る?まさか、あんたを信用しているから真っ先に父親にその【聖水】を飲まそうと考えていると思っているのか?」
「違うのですか?」
それでは一体何の為に……?
「それは、わけもわからない薬を飲ませて他の連中を犠牲にするわけにはいかないからだ。だからまずは俺の父親で試させて貰うんだよ。親父はマンドレイクの毒の治療法をずっと探していたからな。仮に犠牲になるなら親父だけで十分だ」
「そ、そんな……」
まさか、そこまで自分が疑われているとは思いもしなかった。
つまり、彼等はそこまで王族である私を憎んでいるとうことなのだ。
「信じて下さい。この【聖水】は毒などではありません。全ての毒を解毒してくれる薬なのです。現に私には何の異変もありません」
「それはあんたがその薬に耐久性がついているからじゃないのか?」
「……」
私は黙ってザカリーを見た。
駄目だ、これでは埒が明かない。恐らくザカリーの耳には私が何を言っても届くことは無いのだろう。
「まぁいい。飲ませてみれば分かることだ。皆もそう思うだろう?」
見かねたのか、一番年長者のセトが声を掛けた。
「ああ。そうだな」
「俺もそう思う」
「とりあえず飲ませてみるしか無いだろう」
「よし、分かった。それじゃザカリー。お前の言う通り、村長から飲ませるぞ。いいな?」
セトがザカリーに尋ねた。
「ああ、いいだろう」
ザカリーが頷くと、次にセトは私を見た。
「よし、それじゃまずは彼から飲ませよう」
セトが指さした先には虚ろな目で床に座り、奇妙な声で吠えている男性だった。
「彼がこの村の村長、ハリーだ。ザカリーの父親だ」
「分かりました。それでは村長にまずは【聖水】を飲んでもらいましょう。その際に…一つ、事前に説明して置かなければならないことがあります」
「何だ?説明とは」
ザカリーが眉をしかる。
「はい、強力な毒に侵されている人物が【聖水】を飲めば、一時的に意識を無くしてしまいます。でもそれは体内の毒を中和させる為に身体が休息状態に入るからです。その事をまず知っておいて頂けますか?」
「何だってっ?!それでいつ目が覚めるんだ?!」
私の言葉にザカリーが殺気走る。
「それは…私にも分かりません。あそこまで毒が回ればどれくらいで果たして目が覚めるのかは…。申し訳ございません」
「はっ?!何だそれは!つまり、試してみなければ分からないということだな?!」
「はい…そうです」
うつむき加減に返事をした。
「それじゃ二度と目が覚めない可能性もあるということだな?」
「いいえ!それは決してありません!」
私の錬金術は完璧だ。
錬金術は自分の命を掛けて行う作業。過去には錬金術を失敗し、腕や足の1本や2本失ってしまった錬金術師もいる。
常に死と隣合わせで錬金術を行っているのだ。
「まぁ、落ち着け。ザカリー。どのみち、我らには彼等を解毒する術はないのだ。ここは一つ、試すしか無いじゃないか?」
「はい、そうです。なんでしたら【聖水】を飲ませた後、村長さんの目が覚めるまでは私を拘束していただいても結構です」
すると、ザカリーが不敵な笑みを浮かべた。
「…なるほど、いい度胸だな……。それではお望み通り、そうさせてもらうか?」
「ええ、構いません」
ザカリーの言葉に私はきっぱりと頷いた――。
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