第1章 97 憎しみの込められた視線

「あの…私は仲間たちと供に、この村に来たのですが…彼等を見掛けませんでしたか?」


「ああ、そう言えば大勢見慣れない人物たちがいたな。全員剣を持っていたようだから隠れていたんだよ。おまけに何人かは剣を振り回していて、こちらの身が危険だったから逃げてきたんだよ。恐らくマンドレイクの毒にやられてしまったんだろう。ああなると、もうオレたちには対処出来ないし…あれはあんたの仲間達だったのか?」


青い髪の青年が尋ねてきた。


「はい、そうです。私はあの人達と旅を続けていました」


「ふ〜ん。そうか。悪かったな。見捨てるような真似をしてしまって」


「いえ、恐らくもう彼等は大丈夫なはずです。解毒薬を使いましたから」


すると私達の会話を聞いていた人々が次々と尋ねてきた。


「解毒薬……?そんなものがあるのか?」


「はい、あります」



「俺はマンドレイクを解毒する薬があるなんて今まで一度も聞いたことがないぞ?」


一番年上と思しき白髪交じりの男性が首をひねった。


「いえ、あります。あの荷車に乗せられた花瓶や瓶の中には解毒薬が入っています。あの解毒薬は万能なんです。どんな毒も中和出来ますし、事前に飲んでおけば毒に侵されることもありません。現に私も事前に解毒薬を飲んでいますから。私はこの村の毒を解毒するためにこの村にやってきたのです」


「何だって?!」

「確かに…毒に侵されていないようだが…。」

「だが、万能の解毒薬なんて本当なのか?」

「どうも疑わしいな…」


村の人達はまだ私の言葉を疑っているようだった。

すると、白髪交じりの男性が声を掛けてきた。


「大体、何で余所者のあんたが危険を顧みずに俺たちを助けようとしているんだ?」


「そうだな。そんな事をしてもあんたは何も得なんかしないだろう?」


「本当の目的は何だ?正直に言ってみろ」



「それは……」


駄目だ。

彼等は私を疑いの目で見ている。やはり……少々危険かもしれないが、ここは正直に自分の身元を明かしたほうがいいのかもしれない。


「それは私が『レノスト』国の王女だからです。この村を救うのは王女としての私の務めだからです」


私はついに白状してしまった。

すると――。


「何だってっ?!」

「お前が…王女だって?」

「俺たちを騙した王族か?」

「お前らのせいで…俺たちは…!」


一斉に彼等の視線が憎悪に変わって私に向けられる。


「おいっ!王女だか何だか知らないがなぁ…何で今まで俺たちが助けを求めてきたのを今まで無視していたんだよっ!」


「お前らが俺たちにマンドレイクの栽培を命じたせいで…。こんな事になってしまったんだぞっ!」


「どれだけの人間が毒で死んじまったと思ってるんだ!」


「お前たちのせいで、俺たちは色んなものを失ってしまった!どう責任を取ってくれるんだよっ!」


彼等は次々と私に罵声を浴びせてくる。

それどころかまるで今にも暴力を奮って来そうな雰囲気が漂い、内心怖くてたまらなかった。

けれども自分を奮い立たせると、再度私は訴えた。


「そうです!私達王族はとんでもない間違いを犯しました。元々勝てる可能性は限りなく低かったのに父は勝手に『エデル』国に宣戦布告し…多くの領民たちを犠牲にしてしまいまいました。私は贖罪する為に、『シセル』を訪れたのです!どうか私を信じて…村を解毒させてくださいっ!」


そして頭を下げた。


すると白髪交じりの男性が口を開いた。


「そうか…。そこまで言うならあんたを試させてもらう。この村にはマンドレイクの毒が全身に回り、中毒症状を起こして地下に監禁されている村人が大勢いるんだ。

彼等の解毒が出来たら、あんたを信用してやろう?だが……もし出来なかったら、その時はタダで済むと思うなよ?俺たちは…王族なんか少しも怖くないんだからな」


そして彼は私を憎しみを込めた目で私を睨みつけてきた――。





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