第1章 96 村の人々

「…一体この女性は誰なのだろう?」


「村に馬車がとまっていたよな?」


「恐らく、その馬車に乗っていたのだろう」


「それにしても…きれいな女性だなぁ……」


「うん、みすぼらしい身なりだけどな」



……どこかで人の話し声が聞こえてくる。


「う…」


何度目を瞬き…薄目を開けた。



「あ、気がついたみたいだ!」


すぐ近くで男性の声が聞こえた。


「え……?」


すると、私を見下ろしている若い男性と目があった。


「大丈夫か?目が覚めたようだな?」


男性は私に声を掛けてきた。


「は、はい…」


ゆっくり起き上がり、自分がベッドに寝かされていたことに気がついた。


周囲を見渡し、ここはかなり広い洞窟であることが分かった。洞窟の中には大きな机と椅子が並べられ、10名前後の男性たちが椅子に座ってこちらを見ていた。


私が寝かされていたベッドの他に、やはり10台前後のベッドが並べられている

洞窟を照らす為に松明が至る所に置かれていた。


まるでここは洞窟に作られた居住空間のようだった。


「あの…ここは『シセル』の村でしょうか?」


直ぐ側にいた男性に尋ねた。


「ああ、そうだけど…よくここがそうだと分かったな?ひょっとして外に止まっていた馬車に乗ってやってきたのか?」


「はい、そうです。ところで…私は一体どうなったのでしょう?」


「あんたはこの村のある家の前で倒れていたんだよ。俺たちは普段はこの地下の洞窟で暮らしているんだ。ある事情があって、地下じゃないと暮らせなくなってしまったからな。それで1日に数回、当番を決めて地上に上がって村の様子を見て回っているんだよ。その時…倒れているあんたを発見したんだ。あのままあそこで倒れていたら危険だからな…。俺がここへ連れ帰ってきたんだよ」


青い髪の青年が教えてくれた。


「そうだったのですか…。助けて頂き、どうもありがとうございました。そう言えば、私は荷車を持っていたのですが…」


「ああ、それならあそこに置いてあるよ」


男性が指さしたさきには荷車が置かれていた。


「ありがとうございます。荷車まで運んでいただいて」


あの中には大切な【聖水】が入っているのだから、失くすわけにはいかない。



すると、今度は奥の椅子に座っていた男性たちが次々に尋ねてきた。


「一体、あんたはどこから来たんだ?」


彼等も私が『レノスト』国の王女だと知れば、敵視してくるかもしれない。なるべく情報は最小限に伝えたほうが良いかもしれない。


「はい、私は『クリーク』の町から来ました」


「『クリーク』の町から…?あの町も戦争で大変だったようだしな…」


「それにしたって、何しにこんなところまで来たんだよ?知ってるかどうかは分からないが、この村は『クリーク』よりももっと酷いところだぞ。何しろ…」


「マンドレイクの栽培によって、毒に侵されてしまった村だから……ですよね?」


「え?!な、何でそのことを……?」


最初に尋ねてきた男性が尋ねてきた。


「はい。マンドレイクは毒を持っています。それが大量に栽培されればどんなことになるかは容易に想像がついたからです」



「ふ〜ん…お嬢さんは薬師なのか?」


「いいえ、連れの仲間に薬師はおりますが私は違います。ただ薬の知識はありますが……あ!」


その時、私は肝心なことを思い出した――。





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